胚移植後の鍼灸について

移植前と移植後では、当院の施術は目的も内容も大きく変わります。ここでは移植後の施術で私たちが特に大切にしているポイントを、研究知見もまじえてご紹介します。

1)子宮内膜への「血流を上げる」

着床の成立には、子宮内膜へ十分な血流が届いていることが重要です。血液は酸素や栄養を運び、子宮環境を整える“物流”の役割を担います。薄く低酸素な内膜より、厚みがあり“ふかふか”で血流の良い内膜の方が、受精卵にとって居心地がよいのは自然なことです。

鍼灸は、骨盤内の血管・神経に関連する部位へやさしい刺激を行い、子宮動脈の血流抵抗を下げる(=流れを良くする)可能性が報告されています。小規模ながら、電気鍼で子宮動脈の脈動指数(PI)が低下した研究があります。
【出典1】Stener-Victorin E, et al. Reduction of blood flow impedance in the uterine arteries by electro-acupuncture(Hum Reprod, 1996)
【出典2】Ho M, et al. Electroacupuncture reduces uterine artery blood flow impedance in infertile women(Taiwan J Obstet Gynecol, 2009)

一方、「鍼灸でIVFの出産率が必ず上がる」という断定的な結論は出ていません。大規模RCTではライブバース率(実際に赤ちゃんが生まれた割合)の有意差なしが示され、近年のメタ解析でも一部で臨床妊娠率の上昇を示す報告はあるが、ライブバース率の一貫した改善は確認されていないという整理が妥当です。私たちはこのエビデンスを踏まえ、「血流・コンディションづくりの支援」として安全に実施する立場です。
【出典】Smith CA, et al. Effect of Acupuncture vs Sham Acupuncture on Live Births Among Women Undergoing IVF(JAMA, 2018)

当院では、移植後は子宮を栄養する血管・神経の近くに低刺激でピンポイントにアプローチし、全身循環とのバランスを取りながら血流を促します。

2)「副交感神経優位」の環境づくり

リラックス時に働く副交感神経は、毛細血管を拡張させ、内臓(生殖器を含む)の働きを高める方向に作用します。自律神経の整えは、子宮の血流と運動(収縮)にも影響することが古くから生理学的に示されています。
【出典1】Hotta H, et al. Uterine contractility and blood flow are reflexively regulated by cutaneous stimulation. Neurosci Res. 1999.
【出典2】Uchida S, et al. Autonomic nervous regulation of ovarian function. Front Neurosci. 2014.

当院では、自律神経を整える取穴(使うツボ)と心地よい手技(マッサージ)を組み合わせ、副交感神経が働きやすい状態へと誘導します。これによりストレス軽減や体のこわばりの緩和を図り、「血流+自律神経」の両面から着床期の土台を整えます。

3)「不安要素を取りのぞく」=安全性と安心感

体外受精・胚移植はとても繊細なプロセス。施術そのものが不安のタネにならないことを最重要視します。

妊娠期の鍼灸は、有資格者が適切に行えば概ね安全とする系統的レビューがあり、流産の増加との明確な因果は示されていません。ただし、不要な強刺激や不快感は避けるべきとされます。当院は低刺激・短時間・慎重な体位を徹底し、体調変化を逐一確認します。
【出典】Park J, et al. The safety of acupuncture during pregnancy: a systematic review. Acta Obstet Gynecol Scand. 2014.

具体的には、子宮に直接関与するとされる一部の部位(例:三陰交など)への刺激は避ける、あるいは妊娠経過や不安に配慮して控えるなど、患者さまの安心を最優先に施術設計します(歴史的に“禁忌”とされてきた部位のエビデンスは限定的ですが、不安を増やす可能性のある要素は意図的に排除します)。
【出典】Moon HY, et al. Safety of acupuncture during pregnancy: a retrospective cohort study. BJOG. 2020.

「移植後より、移植前が大事」は変わりません

ここで述べた内容は移植後の施術についてです。子宮環境づくりは本来「移植前」からの継続ケアが肝心で、冷え・睡眠・栄養・ストレス・運動などの生活要因も含め、数週間〜数か月単位の準備が理想的です。移植後はやり過ぎない、でも必要な支えはする——そのバランスを大切にします。

胚移植後の時期は、心も体もとても繊細なとき

宇都宮鍼灸良導絡院では、一人ひとりの状態に合わせて、着床を支える優しい鍼灸施術を行っています。冷えや血流、自律神経の乱れなど、少しでも気になることがあればご相談ください。あなたの「妊娠しやすい身体づくり」を全力でサポートいたします🌿

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