妊娠は、女性の身体に大きな変化をもたらします。現代では仕事を続けながら妊婦生活を送る方も多く、つわりだけでなく、様々な不定愁訴に悩まされることが少なくありません。このページでは、妊娠中に起こりやすい心身の不調の原因と、それに対する鍼灸によるアプローチについて、最新の知見を交えながら詳しく解説します。
疲労感と眠気:その原因は「鉄分不足」かも
「妊娠してからずっとだるい」「眠気がひどくて仕事に集中できない」と感じる妊婦さんはたくさんいらっしゃいます。この疲労感や眠気の背景には、鉄分不足が潜んでいる可能性があります。
妊娠中の鉄分不足と貧血
妊娠中は、お腹の赤ちゃんに優先的に栄養や酸素を送るため、母体の血液量が増加します。しかし、血液が増える一方で、酸素を運ぶヘモグロビンの材料である鉄分は、胎児に優先的に運ばれます。
- 妊娠中期〜後期
: 妊娠中期から後期にかけて、胎児は急速に成長するため、母体は非妊娠時の2倍以上の鉄分が必要になります。 - 貯蔵鉄の枯渇
: 体内の鉄分が不足すると、まずは肝臓や脾臓に蓄えられている「貯蔵鉄」が使われます。貯蔵鉄がなくなると、全身の組織へ酸素を運ぶヘモグロビンが十分に作られなくなり、全身が酸欠状態になります。 - 鉄欠乏性貧血
: これがいわゆる鉄欠乏性貧血の状態で、動悸、息切れ、強い疲労感や眠気、倦怠感といった症状となって現れます。
当院のマタニティ鍼灸では、全身の血流を整え、胃腸の働きを強めることで、食事からの栄養吸収力を高めます。妊婦さんご自身のためにも、そして胎児の健やかな発育のためにも、栄養不足になりにくい身体づくりを目指します。
妊娠中はなぜ「免疫力」が低下するの?
「妊娠すると免疫力が下がる」と聞いたことがある方も多いでしょう。これは、お腹の赤ちゃんを守るための、母体の身体に備わった重要な仕組みです。
胎児を「異物」と認識しないための仕組み
赤ちゃんは、母親とは異なる遺伝子を持っています。本来、母親の免疫システムは、外部から侵入してきた「異物」を攻撃する性質を持っています。しかし、妊娠中は、お腹の赤ちゃんを誤って異物として攻撃しないように、免疫細胞の働きが抑えられます。これを「免疫寛容」といい、妊娠を維持するために不可欠な生理現象です。
感染症リスクの上昇と対策
この免疫力の低下により、妊婦さんは普段よりも様々な感染症にかかりやすくなったり、重症化しやすくなったりするリスクがあります。
- リスク: 感染症の種類によっては、流産や早産、母子感染につながる可能性もあるため、事前の予防が非常に重要です。
- 予防: 手洗いやうがいを徹底する、人混みを避ける、乾燥に注意する、十分な睡眠をとるといった基本的な対策に加えて、身体の内側から免疫力を高めることが大切です。
当院のマタニティ鍼灸では、免疫力を高めることを目的とした施術を行います。お身体の不調を整え、胃の働きを強めること、腸内環境を整えること、身体が本来持っている防御機能を維持させること、そして自律神経を整えることで、免疫力低下の防止と向上をサポートします。
薬に頼らない「頭痛」のケア
妊娠中に頭痛に悩まされる女性は多く、鎮痛剤の服用を避けたいと考える方も少なくありません。病院で処方される妊婦さん向けの鎮痛剤でも、「効かない」と感じる方もいらっしゃいます。
そのような方には、鍼灸をおすすめします。鍼灸治療は、頭痛の原因となる首や肩の筋肉の緊張を緩和し、血流を改善することで、薬に頼らずに痛みを和らげる効果が期待できます。
- 鎮痛剤を飲みたくない方: 鍼灸によって、痛みがスーッと引いていくのを実感できることがあります。
- 頭痛の予防: 定期的に鍼灸を受けることで、頭痛が起きにくい体質へと改善し、頭痛の予防にもつながります。
頭痛の原因が肩や首のコリなどによる緊張型頭痛であれ、ホルモンバランスの変化による片頭痛であれ、鍼灸は有効なアプローチとなり得ます。
出典:Cochrane Report (コクランレビュー)
頭痛に対する鍼治療の有用性について、世界的に質の高い医療情報として認められているコクランレポートでは、「妊娠または妊娠の可能性がある患者の頭痛に対して鍼灸治療は有用である」と結論づけています。
自律神経を整え、安心安全なマタニティ生活を
妊娠中は、ホルモンバランスの急激な変化や身体的な負担、将来への不安などから、自律神経が乱れやすくなります。自律神経は、血圧や心拍数、内臓の働きを調整しているため、そのバランスが崩れると、母体だけでなく胎児にも影響を及ぼす可能性があります。
副交感神経を優位に
妊娠中に特に重要視すべきは、自律神経のうち副交感神経を優位にさせることです。
- 血流の改善: 副交感神経が優位になると、内臓全体の血流量が増加します。これにより、胎盤への血流も改善され、胎児への栄養補給がスムーズに行われやすくなります。
- 心身のリラックス: 副交感神経が活性化されることで、心身がリラックスした状態になり、血圧、心拍数、呼吸数が安定します。これにより、ストレスや不安が軽減され、心身ともに穏やかな状態を保つことができます。
当院のマタニティ鍼灸では、妊婦さんにリラックスしていただくことを最優先に考え、妊娠前の施術よりも全体的に刺激量を控えめに行います。鍼灸の穏やかな刺激とマッサージを組み合わせることで、お身体の緊張を緩め、副交感神経を優位に導きます。
身体的な効果だけでなく、心の状態を穏やかに保つことは、安心安全なマタニティ生活を送る上で非常に大切です。お身体の不調だけでなく、精神的な不安についても、お気軽にご相談ください。