
卵子とミトコンドリアの関係とは?卵子の老化・質との関係をわかりやすく解説
「卵子の質を良くするには、ミトコンドリアが大切」
妊活中に情報を調べていると、このような言葉を目にすることがあります。
ミトコンドリアは、私たちの身体の細胞の中でエネルギーをつくる重要な働きをしています。そして卵子にも多くのミトコンドリアが存在し、卵子の成熟や受精、その後の胚発育に関わっています。
一方で、
「ミトコンドリアを増やせば卵子が若返る」
「運動やサプリメントで卵子の老化を止められる」
と単純に考えることはできません。
卵子の老化には、染色体の分配に関わる仕組みやDNA、細胞内のさまざまな変化が複雑に関係しており、ミトコンドリアはその一つと考えられています。
この記事では、卵子とミトコンドリアにはどのような関係があるのか、卵子の老化や「卵子の質」とどのようにつながっているのかを、現在わかっている研究をもとにわかりやすく解説します。
そもそもミトコンドリアとは?
ミトコンドリアは、ほとんどの細胞の中に存在する小さな器官です。
代表的な役割が、私たちが活動するために必要な「ATP(アデノシン三リン酸)」というエネルギーをつくることです。
身体を動かす、心臓を動かす、細胞を修復するなど、私たちの身体ではさまざまな場面でエネルギーが必要になります。
卵子も例外ではありません。
卵子は成熟し、受精し、その後の初期胚へと発育していく過程で多くのエネルギーを必要とするため、ミトコンドリアは生殖においても重要な役割を担っています。
なぜ卵子にはミトコンドリアが重要なの?
卵子は、排卵される直前まで成熟を続けています。
その過程では、染色体を正しく分けたり、細胞内の状態を整えたりするためにエネルギーが必要です。
さらに受精後も、胚が成長していく初期段階では卵子の中にもともと存在していたミトコンドリアが重要になります。
卵子の成熟を支える
卵子が成熟するときには、染色体を正しく分配するための「紡錘体」と呼ばれる構造がつくられます。
この過程にもエネルギーが必要であり、ミトコンドリアによるエネルギー産生の状態が卵子の正常な成熟に関係すると考えられています。
受精後の胚発育にも関係する
受精した卵子は、その後、細胞分裂を繰り返して胚へと成長します。
この初期発育を支えるうえでも、卵子から受け継いだミトコンドリアが重要です。
そのため研究では、ミトコンドリアの機能低下と、卵子の成熟や胚の発育能力との関係が長く調べられてきました。
年齢とともに卵子のミトコンドリアも変化する
女性の妊娠しやすさに最も大きく関係する要因の一つが年齢です。
年齢とともに卵子の数が減っていくだけでなく、染色体異常の割合が増えるなど、卵子の持つ生殖能力も変化していきます。
研究では、この卵子の加齢に伴って、
- ミトコンドリアによるエネルギー産生の変化
- ミトコンドリアDNAの変化
- 活性酸素と酸化ストレスの増加
- ミトコンドリアの品質を維持する仕組みの変化
- 細胞内でのミトコンドリアの配置や働きの変化
などが起こる可能性が報告されています。
こうした変化が重なることで、卵子が十分なエネルギーをつくりにくくなったり、正常な成熟や染色体分配が難しくなったりする可能性が考えられています。
ただし、ここで重要なのは、「卵子の老化=ミトコンドリアだけが原因」ではないということです。
卵子の老化には、染色体をまとめる構造の変化、DNA修復能力、細胞内のタンパク質合成など、さまざまな要因が関係しています。ミトコンドリアは、その複雑な仕組みの一つです。
「卵子の数」と「卵子の質」は別のもの
妊活中によく聞く「AMH」という検査があります。
AMH(抗ミュラー管ホルモン)は、主に卵巣内に残っている卵胞の数、つまり「卵巣予備能」を推測するために使われる検査です。
しかし、AMHが高いから卵子の質が良い、AMHが低いから卵子の質が悪い、という意味ではありません。
ASRM(米国生殖医学会)も、AMHや胞状卵胞数(AFC)は採卵時に得られる卵子数を予測するためには有用である一方、妊娠や出生につながる「卵子の質」を単独で予測する力は限定的としています。
卵子の質について考える場合には、AMHだけを見るのではなく、年齢やこれまでの採卵結果、受精率、胚発育などを含めて総合的に考えることが大切です。
ミトコンドリアを増やせば卵子は若返る?
ここは、妊活中の方に特に知っておいていただきたいところです。
インターネットやSNSでは、
「ミトコンドリアを増やせば卵子が若返る」
「○○をすれば卵子の質が改善する」
といった表現を見かけることがあります。
しかし現在のところ、特定の食事や運動、サプリメントなどによって加齢した卵子を若い状態に戻せると確立された方法はありません。
ミトコンドリアの状態を良好に保つことは細胞の健康にとって重要ですが、それと「卵子を若返らせる」ことは同じではありません。
年齢による卵子の変化を、生活習慣だけで元に戻せるわけではないことを理解しておく必要があります。年齢は現在でも生殖予後を考えるうえで重要な要素です。
妊活中にできることはないの?
「卵子を若返らせることができないなら、何をしても意味がないの?」
そう感じる必要はありません。
年齢そのものを変えることはできませんが、妊娠を目指す身体のコンディションを整えるためにできることはあります。
喫煙している場合は禁煙を考える
喫煙は、妊娠しやすさや不妊治療の成績に悪影響を及ぼすことが知られている生活習慣の一つです。
ASRMも、妊娠を希望する男女に対して喫煙を避けることを推奨しています。
極端な食事制限をしない
以前は「空腹状態をつくるとミトコンドリアが増える」といった情報が妊活にも応用されることがありました。
しかし、妊活中に無理なカロリー制限や断食を行うことを積極的におすすめできる根拠はありません。
体重や栄養状態は月経・排卵にも関係します。特定の食品だけに偏らず、必要なエネルギーやたんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラルをバランスよくとることを基本に考えましょう。
無理のない範囲で身体を動かす
ウォーキングなどの適度な運動は、体力維持や睡眠、ストレス管理など全身の健康づくりに役立ちます。
ただし、「ウォーキングをすればミトコンドリアが増えて卵子の質が上がる」とまで断定することはできません。
妊活中は、何か一つの方法で卵子を変えようとするのではなく、続けられる範囲で生活全体を整えていくことをおすすめします。
睡眠や休養も大切にする
不妊治療中は、通院や仕事との両立、採卵や移植の結果への不安などから、身体だけでなく気持ちも疲れやすくなります。
睡眠不足や強い疲労を我慢し続けるよりも、生活リズムを整え、休める時間を確保することも大切です。
当院では「卵子を若返らせるために○○をしてください」といったお伝えの仕方はしていません。妊活中は、睡眠不足、肩こりや腰痛、冷え、疲労感、ストレスなどを抱えながら治療を続けている方も少なくありません。鍼灸や良導絡測定なども用いながら、その方の体調を確認し、妊活を続けやすい身体のコンディションを整えることを大切にしています。不妊治療が必要な場合は、もちろん婦人科・不妊治療クリニックでの治療を優先しながら並行して考えていきます。
CoQ10などのサプリメントはどうなの?
ミトコンドリアとの関係から、妊活中のサプリメントとしてよく知られているものの一つがCoQ10(コエンザイムQ10)です。
CoQ10はミトコンドリアのエネルギー産生に関わる物質で、抗酸化作用もあります。
卵巣予備能が低下した女性がIVF・ICSIを受ける際のCoQ10については、採卵数や臨床妊娠率などの改善を示した研究やメタ解析も報告されています。
一方で、対象となった研究数や研究方法には限界があり、「すべての妊活中の女性が飲めば卵子の質が良くなる」とまでは言えません。
サプリメントは薬との併用や持病などによって注意が必要な場合もあります。不妊治療中の方は、自己判断で多種類を追加するのではなく、主治医に相談して使用することをおすすめします。
「ミトコンドリア移植」で卵子を若返らせる治療はある?
過去には、卵子の細胞質やミトコンドリアに働きかけるさまざまな生殖補助医療が研究されてきました。
その一つに、第三者の卵子の細胞質やミトコンドリアを利用する「ミトコンドリア置換」などの技術があります。
ただし、これらは一般的な「卵子若返り治療」として確立されたものではありません。
ミトコンドリア置換技術は、本来、特定の重篤なミトコンドリア病が母親から子どもへ伝わることを防ぐ目的などで研究・利用されてきた技術です。ESHREも、不妊治療における卵子の若返りを目的とした利用については慎重な姿勢を示しています。
「最新治療だから卵子が若返る」と考えるのではなく、治療を検討する場合には、科学的根拠、安全性、国内での位置づけなどを十分に確認する必要があります。
ミトコンドリアだけにとらわれすぎないことも大切
ミトコンドリアは、確かに卵子の成熟や受精後の発育に重要な役割を持っています。
そして、加齢に伴う卵子の変化とミトコンドリア機能との関連についても、多くの研究が行われています。
しかし、
「ミトコンドリアを増やす=卵子の質が上がる」
という単純な関係ではありません。
特に妊活中は、「これを食べれば卵子が若返る」「この運動をすれば卵子の質が上がる」といった情報に振り回されてしまうことがあります。
卵子の年齢を戻すことを目標にするのではなく、今の年齢や卵巣予備能、治療状況を把握したうえで、必要な不妊治療を適切な時期に受けながら、食事・運動・睡眠・禁煙など、全身の健康につながる生活を続けていくことが現実的です。
Q.ミトコンドリアが多ければ卵子の質は良いのですか?
単純に「数が多いほど良い」とは言えません。ミトコンドリアは数だけでなく、エネルギーをつくる能力やDNAの状態、品質管理なども重要です。卵子の質はミトコンドリアだけで決まるものではありません。
Q.ウォーキングで卵子のミトコンドリアは増えますか?
運動によって骨格筋などのミトコンドリアが適応することは知られていますが、それをそのまま「ウォーキングで卵子のミトコンドリアが増えて、卵子の質が良くなる」と考えることはできません。適度な運動は妊活中の健康管理の一つとして考えましょう。
Q.AMHが低いと卵子の質も悪いのでしょうか?
AMHは主に卵巣に残っている卵胞数を推測する指標です。低いAMHだけで卵子の質が悪いと判断することはできません。年齢やこれまでの治療結果などを含めて判断します。
Q.CoQ10を飲めば卵子の質は改善しますか?
一部の不妊治療患者を対象とした研究では有望な結果も報告されていますが、すべての方に同じ効果があることが確立されているわけではありません。治療中の場合は、主治医と相談して使用することをおすすめします。
Q.鍼灸で卵子のミトコンドリアを増やすことはできますか?
現在のところ、鍼灸によって人の卵子のミトコンドリアが増え、それによって卵子が若返ると断定できる臨床的な根拠はありません。当院でもそのような説明は行っていません。鍼灸は、不妊治療と並行しながら身体の痛みや疲労、冷え、睡眠、ストレスなど、妊活中の身体全体のコンディションを整える目的で取り入れています。
まとめ|ミトコンドリアは大切。でも「卵子を若返らせる」とは別の話
ミトコンドリアは、卵子が成熟し、受精し、その後の胚へと発育していくために欠かせない存在です。
また、年齢とともにミトコンドリアの機能やDNA、エネルギー産生などに変化が起こり、それが卵子の加齢と関連している可能性も研究されています。
ただし、ミトコンドリアだけが卵子の老化を決めているわけではなく、現在のところ「ミトコンドリアを増やせば卵子を若返らせられる」という方法が確立されているわけでもありません。
妊活中は一つの情報だけにとらわれず、年齢やAMH、これまでの治療経過を踏まえて必要な医療を受けながら、食事・睡眠・運動・禁煙など、自分の身体を健康に保つためにできることを続けていきましょう。
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📚参考文献
- Wang T, et al. Mitochondrial dysfunction in oocytes: implications for fertility and ageing. Journal of Ovarian Research. 2025.
- Mitochondria as therapeutic targets in assisted reproduction. Human Reproduction. 2024.
- American Society for Reproductive Medicine. Testing and interpreting measures of ovarian reserve: a committee opinion.
- Lin G, et al. Clinical evidence of coenzyme Q10 pretreatment for women with diminished ovarian reserve undergoing IVF/ICSI: a systematic review and meta-analysis. Annals of Medicine. 2024.
- American Society for Reproductive Medicine. Tobacco or marijuana use and infertility: a committee opinion. 2024.
- European Society of Human Reproduction and Embryology. Spindle transfer in the treatment of infertility: an ESHRE position statement.
この記事の監修者


院長:宇都宮 泰子
(うつのみや やすこ)
FEMICA認定妊活指導士/鍼灸学修士/MBA(経営管理修士)
はり師・きゅう師(国家資格)
- 日本フェムライフ統合ケア協会 代表理事
- 日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー
- 日本生殖医学会会員
不妊・不育症を専門とし、東洋医学と生殖医療の両面から体質改善をサポート。大学院研究員としての研究活動も行いながら、臨床現場で妊活支援に従事している。
※本記事は一般的な医学情報を提供するものであり、診断・治療を目的とするものではありません。治療方針は必ず主治医の指示に従ってください。
妊活中の身体づくりで迷ったら、ご相談ください
卵子やミトコンドリアについて調べていると、「食事はどうしたらいい?」「運動した方がいい?」「今からできることはある?」と、かえって迷ってしまうこともあります。
卵子の年齢そのものを戻すことはできませんが、妊活中の身体づくりでは、睡眠、疲労、冷え、肩こり・腰痛、ストレス、生活リズムなど、今の身体の状態を整えていくことも大切です。
大阪市都島区にある宇都宮鍼灸良導絡院では、不妊治療を受けている方の治療状況も確認しながら、鍼灸や良導絡測定を通して、一人ひとりの体調に合わせた妊活サポートを行っています。
「自分の場合は何を意識したらいいのかな」と気になることがありましたら、どうぞお気軽にご相談ください🍀








「AMHが低かったので、卵子の質も悪いのでしょうか?」というご相談をいただくことがあります。しかし、AMHは主に卵子の残りの数を推測する指標であり、卵子の質そのものを測定する検査ではありません。数字だけを見て必要以上に不安にならず、年齢や治療経過、採卵結果なども含めて考えることが大切です。