
過度な運動が精子力を下げる理由と安全な運動ガイド
「健康のための運動」が妊活にプラスなのは事実です。しかし、マラソン練習やトライアスロン、競技レベルのサイクリング、ハードな筋トレを高頻度・長時間で続けると、精子のコンディションを損なう可能性が示されています。
鍵になるのは、「強度」と「量」のバランスです。
Q1. 妊活中に運動はした方がいいですか?
はい、適度な運動はプラスです。
血流促進やストレス軽減になり、精子のコンディション向上に役立ちます。ただし、「強度」と「量」のバランスが鍵です。
Q2. どのくらいの運動が「やりすぎ(過度)」にあたりますか?
長時間・高強度の運動です。
マラソン練習、トライアスロン、競技レベルのサイクリング、高負荷の筋トレを高頻度かつ長時間続けると、精子を傷つける「酸化ストレス」が増える可能性があります。
Q3. ランニングは精子に悪いですか?
強度によります。
競技レベルの高強度な長距離ランニングは注意が必要ですが、会話ができるペースの軽いジョギング(中等度)を週数回行う程度であれば、健康維持にプラスに働くと考えられます。
Q4. 適切な運動量(目安)はどれくらいですか?
「中等度×週150分」をベースにしましょう。
具体的には、息が弾む程度の速歩や軽いジョギングを1日30分×週5日行う程度です。これに加えて、筋力トレーニングを週2日以上取り入れるとさらに良いでしょう。
Q5. サイクリングで注意することはありますか?
「圧迫」と「熱」の対策が必要です。
長時間のサイクリングは、会陰部の圧迫や陰嚢の温度上昇につながる可能性があります。クッション性のあるサドルや、1時間に1回の減圧休憩(立ちこぎ)を取り入れましょう。
Q6. 運動以外で精子力を守るために大切なことは何ですか?
回復(睡眠)と生活習慣の改善が不可欠です。
- 質の良い睡眠を7〜8時間確保する(疲労と酸化ストレス対策)
- 抗酸化作用のある食品(トマト、ナッツ、青魚など)を積極的に摂る
- 禁煙する(精子DNA損傷と強く関連)
- 飲酒は控えめにする
目次
なぜ「やりすぎ」がよくないの?:精子を傷つける「酸化ストレス」
激しい運動を続けると、体内で活性酸素(ROS)が増え、「酸化ストレス」が上昇します。
精子は、この酸化ストレスに非常に弱いため、以下のような悪影響が起こりやすくなります。
- 精子の運動能力の低下:エネルギー不足になり、前に進む力が弱まります。
- DNA断片化(損傷)の増加:精子の遺伝情報が傷つき、受精や流産のリスクと関連します。
- 形態異常(奇形率)の上昇:精子の形が崩れる割合が増えます。
実際、エリート級の高強度トレーニングをしている人では、精液中の酸化ストレス指標が高く、受胎能が低い傾向が報告されています。一方で、中等度の運動は精液所見の向上と関連しており、運動の影響は強度次第で逆転します。
「過度な運動」の目安と注意が必要な種目
1. 持久系(ランニング/トライアスロンなど)
注意点:長時間・高強度の持久系を慢性的に行うと、酸化ストレスが増大し、精子機能低下につながりやすいことが示唆されています。競技レベルの反復トレーニングは特に注意が必要です。
安全な目安:軽〜中等度のジョギングを週数回行う程度なら、代謝、血流改善、ストレス軽減の面からむしろプラスが期待できます。
2. サイクリング
注意点:競技的サイクリングや長時間の走行は、会陰部の圧迫や陰嚢温度の上昇により、精子所見の悪化やED(勃起障害)リスクとの関連が指摘されています。
対策:
- クッション性やカットアウト(穴あき)のあるサドルを選ぶ。
- 1時間に1回は立ちこぎで減圧する。
- 通気性の良いウェアを着用する。
3. 高負荷のレジスタンストレーニング(筋トレ)
注意点:高頻度・高ボリューム(量)での過負荷は、慢性疲労やホルモンバランスの乱れを通じて不利に働く可能性があります。
対策:プログラムを周期化し、回復日を必ず設定して体を休ませましょう。
【知っておきたいこと】
最新の研究では、「持久系で精液所見が低下する可能性はあるが、臨床的な妊孕性(妊娠可能性)への影響は明確でない」という結論もあります。過度に心配して運動を止めるのではなく、強度と回復のバランスを最適化することが現実的です。
今日から実践!安全に続けるための“妊活フィットネス”指針
1. まずは「中等度×週150分」をベースに
世界的な健康ガイドラインでは、中等度の有酸素運動を週150分+筋トレを週2日以上が推奨されています。妊活期もこの基準が妥当です。
具体例:息が弾む程度の速歩、軽いジョギング、スイミングなどを1日30分×週5日から始めましょう。
2. 強度は“会話テスト”で微調整
運動の強度は、「会話ができる=中等度」、「会話が途切れる=高強度」を目安に微調整しましょう。妊活中は中等度を中心にすることが基本です。
3. 回復のコア:「睡眠」と「ストレス管理」
精子の質には、運動よりも睡眠が重要かもしれません。
- 睡眠:7〜8時間の規則的な睡眠を確保し、就床・起床時刻をそろえることが、精液所見の悪化を防ぐことにつながると報告されています。
- ストレス:運動による疲労だけでなく、日常のストレスも精子に悪影響を与えます。休息を最優先に考えましょう。
4. 生活習慣の基本を徹底
酸化ストレスを低減し、精子の質を守るために基本を見直しましょう。
- 禁煙:喫煙はDNA損傷と強く関連するため、すぐにゼロに。
- 節酒:飲酒は適量を心がけましょう。
- 体重管理:過体重も極端な痩せもホルモン環境に不利です。適切な体重を維持しましょう。
食事でできる酸化ストレス対策(“サプリ前に”の基本)
まずは食事全体の質を底上げしましょう。抗酸化作用のある栄養を「食品から」バランスよく摂ることが大切です。
- ビタミンC・E:野菜、果物、ナッツ、良質な植物油
- リコピン:トマト、スイカ
- ポリフェノール:緑茶、ココア、ベリー類
- 魚のDHA/EPA:青魚を定期的に
※抗酸化サプリ単体での妊娠率改善のエビデンスは限定的との見解もあり、まずは食事・運動・睡眠を土台に整えましょう。
週間モデル(例):妊活×運動の“ちょうどいい”バランス
月 →【中等度】速歩30分+ストレッチ
火 →【中等度】上半身筋トレ(8〜12回×2–3セット)
水 →【中等度】ジョギング20–30分(会話できるペース)
木 →【 低 】休養(軽いモビリティ・ヨガ15分)
金 →【中等度】下半身筋トレ+体幹
土 →【中等度】サイクリング45–60分(減圧休憩を入れる)
日 →【 低 】完全休養 or 散歩
ポイント:2〜3週に1回は「回復週(運動の総量を2〜3割減)」を設けると、疲労蓄積と酸化ストレスの偏りを抑えられます。
まとめ:やめるではなく、「最適化」する
妊活中の運動は、「やめる」のではなく「賢く調整する」ことが精子力を守る鍵です。
- 運動量の土台:中等度×週150分(1日30分のジョギングや速歩)を基本にし、筋トレを週2日プラスしましょう。
- 量と種目に注意:長時間の持久系やサイクリングは「量」と「圧・熱」に要注意。高強度は短時間・計画的に。
- 回復を優先:7〜8時間の規則的な睡眠を確保し、疲労をためないこと。
- 基本の徹底:禁煙、節酒、抗酸化物質の摂取を生活習慣の柱にしましょう。
適切な運動習慣と生活習慣で、精子力を高め、健康的な妊活をサポートしましょう。


📚参考文献
- Aerts A, et al. (2024): The Effect of Endurance Exercise on Semen Quality in Male Athletes: A Systematic Review. [PMC: PMC11166609 / PubMed: 38861008]
- Abedpoor N, et al. (2024): 高強度運動と酸化ストレス/DNAダメージの関連レビュー。[PMC]
- Sengupta P, et al. (2024): 酸化ストレスが精子機能に与える影響の総説。[PMC]
- Wise LA, et al. (2010): Physical activity and semen quality in a prospective cohort of men. [PMC: PMC3068936]
- Jóźków P, et al. (2016): The relationship between cycling activity and semen quality in men. [PMC: PMC4778330]
- Borkowski A, et al. (2025): 競技的サイクリングと男性性機能/精液所見に関するレビュー。[journals.viamedica.pl]
- Finelli R, et al. (2022):精液中酸化ストレスの測定法と病態。[PubMed]
- Chen HG, et al. (2020)・Hvidt JEM, et al. (2020): 睡眠時間・就床時刻と精液所見の関連。[サイエンスダイレクト]
- 厚生労働省 (2023): 健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023
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