
月経量が少ない原因と鍼灸での改善法
「不妊治療を始めて2年が経ちますが、月経量が毎回減ってきています。鍼灸で血流をあげると良いとネットでみたのですが、そのような治療も不妊の鍼灸に入っていますか?」と、38歳の女性からお問い合わせをいただきました。
過少月経とは
月経とは、子宮内膜が剥がれ落ちて体外に排出される生理的現象で、約1カ月に一度起こるのが一般的です。月経周期は25~38日間が正常範囲で、出血は3~7日間(平均約4.6日)続き、経血量は約20~140gとされています。
このうち、経血量が20mL以下の非常に少ない月経を「過少月経(hypomenorrhea)」と呼びます。過少月経は、ホルモンバランスの乱れや子宮内膜の菲薄化(薄くなること)によって起こると考えられています。
特に不妊治療中に月経量の減少が続く場合、卵胞の発育状況や子宮内膜の状態、ホルモン値などの見直しが必要になることもあります。
ホルモンやストレスの影響
不妊治療では排卵誘発剤やホルモン補充療法などが多用されますが、これらの影響で月経周期や経血量が変化することがあります。
たとえば、排卵誘発剤の過剰な使用は卵巣に負担をかけ、卵巣機能の低下を招く可能性があり、結果として内膜の発育が不十分になり月経量が減少します。
また、不妊治療には精神的な負荷も大きく、慢性的なストレスや睡眠不足が視床下部―下垂体―卵巣軸(HPO軸)に影響を及ぼし、ホルモン分泌のバランスを乱すことも知られています。
薬の副作用と月経への影響
特に「クロミフェン(商品名:クロミッド)」の長期使用は、子宮内膜を薄くする副作用が報告されています。これは抗エストロゲン作用によるもので、内膜の発育が阻害されることで月経量が減る場合があります。
また、GnRHアゴニストやピルなども内膜の増殖を抑制する作用があり、治療内容によっては月経量の減少は想定内とも言えることがあります。
月経と関係するホルモン
月経には主に以下の女性ホルモンが関与しています:
- エストロゲン(卵胞ホルモン):子宮内膜を増殖させ、排卵を促します。
- プロゲステロン(黄体ホルモン):排卵後、内膜を妊娠に備えた状態に維持し、妊娠が成立しないと月経を引き起こします。
これらのホルモンバランスが崩れると、排卵障害や内膜の成長不足が起こり、結果として月経量の減少につながることがあります。
鍼灸による改善アプローチ
東洋医学では、月経量が少ない状態を「血虚(けっきょ)」や「瘀血(おけつ)」として捉えます。血虚は血が不足した状態、瘀血は血が滞っている状態を意味します。
鍼灸では、気血の巡りを整え、五臓六腑のバランスを調えることで、内膜の血流改善やホルモン調整を図ります。
- 血虚タイプ:補血穴(血を補うツボ)や脾胃を整える施術が有効。
- 瘀血タイプ:瘀血を解消するために、温めて巡らせる施術やストレス緩和の施術が中心。
また、鍼灸は副交感神経を優位にし、自律神経を整える効果があるため、ホルモンの分泌バランスや子宮環境の改善も期待できます。
参考文献
- 齋藤寿一郎. (2018). 過少月経の診断と治療. 産科と婦人科, 43(11), 1315.
- 高崎彰久, & 嶋村勝典. (2009). 子宮内膜の血流. HORMONE FRONTIER IN GYNECOLOGY, 16(2), 109–114.
- 日本産科婦人科学会. (2023). 生殖医療ガイドライン. https://jsog.or.jp/
- Shoupe D, et al. (2015). “Endometrial effects of clomiphene citrate: histologic and biochemical evaluation.” Fertility and Sterility.