
精子無力症と排卵障害に夫婦で取り組んだ事例|漢方・生活習慣・鍼灸の位置づけ
妊活を続けていると、女性側の検査や治療に意識が向きやすい一方で、精液検査をきっかけに男性側の要因が見つかることもあります。
今回ご紹介するのは、奥さまに排卵障害、ご主人に精子無力症が見つかり、それぞれが必要な検査やケアを受けながら、夫婦で妊活に取り組まれた事例です。
漢方薬やサプリメント、生活習慣、鍼灸にはそれぞれ異なる役割があります。どれか一つだけで結果が決まるものではないため、医学的な治療との位置づけも含めて解説します。
※この記事は当院で伺った一事例をもとに、個人情報に配慮して作成しています。経過や感じ方には個人差があり、同じ方法で同様の変化が得られることを保証するものではありません。
- 奥さまは37歳で、月経不順と排卵障害を指摘されていた
- 胃の不調、腰痛、首こり、頭痛など複数の身体的な悩みもあった
- ご主人は38歳で、精液検査を受けた結果、精子無力症と診断された
- 奥さまは鍼灸を続けながら、婦人科での検査や治療を受けた
- ご主人はクリニックで処方された漢方薬などを服用し、生活習慣も見直した
- ご夫婦それぞれの状態を確認し、並行して妊活に取り組んだ
ご夫婦が当院へ相談されたときの状況
奥さまは月経不順と排卵障害を指摘されていた
奥さまは37歳で、月経の間隔が一定せず、婦人科では排卵障害があると診断されていました。
排卵障害とは、卵胞が十分に育たない、排卵が起こりにくい、排卵の時期が安定しないといった状態の総称です。月経が来ていても、毎周期必ず排卵しているとは限りません。
排卵障害の背景には、多嚢胞性卵巣症候群、甲状腺機能やプロラクチンの異常、急激な体重変化、強いストレス、加齢など、さまざまな要因が考えられます。
そのため、月経周期が不規則な場合は、自己判断だけで様子を見るのではなく、超音波検査や血液検査などを受け、原因を確認することが大切です。
胃の不調や頭痛、首こりなどの悩みもあった
奥さまには排卵障害だけでなく、胃が弱い、腰が痛い、首がこる、頭痛が起こりやすいといった複数の不調がありました。
妊活中は、通院や検査、治療の予定を優先するあまり、自分自身の睡眠や食事、休息が後回しになることがあります。
当院では、妊娠だけを目的として身体を見るのではなく、睡眠、食欲、便通、冷え、痛み、疲労、月経周期などを一緒に確認し、その時々の体調に合わせて施術内容を調整しました。
奥さまは週1回程度の鍼灸を続け、婦人科にも通院されました。その経過のなかで、約半年後には月経周期が以前より安定してきたと伺いました。
ただし、この変化を鍼灸だけの作用と判断することはできません。婦人科での管理や生活環境の変化など、複数の要素が関係した可能性があります。
ご主人の精液検査で精子無力症が見つかった
ご夫婦でクリニックへ通い始め、ご主人も精液検査を受けたところ、精子無力症と診断されました。
精子無力症とは
精子無力症とは、前方へ進む精子や動いている精子の割合が、基準と比べて低い状態を指します。現在は「精子運動率が低い」「精子運動性が低下している」と説明されることもあります。
精子には、卵子まで到達するために前方へ進む力が必要です。そのため、運動性は精液検査で確認される重要な項目の一つです。
ただし、精子運動率だけで自然妊娠ができるかどうかを判断することはできません。精子濃度、精液量、正常形態率、総運動精子数などを総合的に評価し、女性側の年齢や排卵、卵管の状態なども含めて治療方針を考えます。
精液検査の結果は毎回同じとは限らない
精液所見は、採取時の体調、禁欲期間、発熱、睡眠不足、飲酒、ストレスなどの影響を受けて変動します。
一度の検査で数値が低かったとしても、それだけで妊娠の可能性がないと決まるわけではありません。最初の検査で異常が認められた場合は、時期を変えて再検査し、複数回の結果から判断することが一般的です。
精索静脈瘤、ホルモン異常、感染症、服用中の薬、過去の手術歴などが関係している場合もあるため、数値が低い状態が続くときは、男性不妊を扱う泌尿器科などへの相談が必要です。
ご主人が取り組んだ漢方薬と生活習慣の見直し
漢方薬はクリニックの指示に沿って服用
ご主人は、クリニックから処方された漢方薬を服用し、ご自身でも選んだ漢方系のサプリメントを併用されていたとのことです。その後の検査では、精子の運動性に変化が見られたと伺いました。
男性不妊に対しては、体質や症状に応じて漢方薬が用いられる場合があります。ただし、漢方薬は「自然由来だから誰でも安全」というものではありません。
体質や持病、服用している薬との組み合わせによっては、副作用や相互作用が起こる可能性があります。自己判断で複数の漢方薬やサプリメントを併用せず、医師や薬剤師へ相談することが大切です。
補中益気湯に関する研究はあるが、効果はまだ確立していない
男性不妊に用いられることがある漢方薬の一つに、補中益気湯があります。
特発性男性不妊の男性22人を対象とした小規模な研究では、補中益気湯の服用後に精漿中の一部の物質が変化し、精子濃度との関連が報告されました。
しかし、対象者が少なく、漢方薬を服用しなかった人と比較する試験ではないため、この研究だけで精子運動率や妊娠率への効果を断定することはできません。
漢方薬は精液検査の数値だけを見て選ぶものではなく、全身状態や体質、持病などを確認したうえで、医師の判断により処方されるものです。
サプリメントだけに頼らない
抗酸化成分などを含むサプリメントが男性妊活向けに販売されていますが、特定の成分を飲めば精子運動率が必ず上がるわけではありません。
研究によって結果にばらつきがあり、妊娠や出産につながるかについて十分な結論が出ていない成分もあります。
食事の代わりとして大量に摂取したり、複数の商品を重ねて飲んだりするのではなく、必要性や摂取量を医師や薬剤師へ確認しましょう。
精子の状態を考えるうえで見直したい生活習慣
生活習慣を整えたからといって、すべての精液所見が正常になるわけではありません。しかし、喫煙、過度の飲酒、肥満、運動不足などは、精子の状態と関連することが報告されています。
喫煙を控える
喫煙は、精子濃度や運動性などの精液所見と負の関連が報告されています。妊活を始めたことをきっかけに、禁煙について医療機関へ相談するのも一つの方法です。
過度の飲酒を避ける
飲酒量が多い状態が続くと、男性ホルモンや精子の状態に影響する可能性があります。毎日の飲酒量や休肝日の有無を確認し、飲み過ぎが続いている場合は減らすことを検討しましょう。
適度に身体を動かす
運動不足や肥満は、精子の状態や男性ホルモンと関連する場合があります。無理な運動を急に始めるのではなく、歩く時間を増やすなど、続けやすい方法から取り組みます。
睡眠と休息を確保する
睡眠不足や不規則な生活が続くと、疲労が抜けにくくなり、食事や運動などほかの生活習慣も乱れやすくなります。
就寝時刻を急に大きく変える必要はありません。まずは起床時刻をそろえる、寝る直前までスマートフォンを見続けないなど、取り組めることから始めましょう。
精巣周辺を長時間高温にしない
長時間の高温環境や発熱は、精子をつくる働きに一時的な影響を与える可能性があります。
サウナや長風呂、膝の上での長時間のパソコン作業などを完全に禁止する必要はありませんが、頻度や時間が極端になっていないか確認してみましょう。
薬や育毛剤なども医師へ伝える
男性ホルモン製剤や一部の薬剤は、精子をつくる働きに影響することがあります。
処方薬、市販薬、サプリメント、育毛目的の薬などを使用している場合は、自己判断で中止せず、精液検査を受ける医療機関へ内容を伝えてください。
排卵障害に対する鍼灸の位置づけ
排卵障害にはさまざまな原因があるため、鍼灸だけで原因を特定したり、排卵を起こしたりすることはできません。
月経不順が続く場合は、婦人科で超音波検査やホルモン検査などを受け、必要に応じて排卵誘発などの治療を検討します。
鍼灸は、医療機関での検査や治療に代わるものではなく、妊活中に生じやすい首肩こり、腰痛、頭痛、冷え、胃腸の不調、睡眠の悩み、緊張などを含め、全身状態を整えるための補完的なケアとして位置づけます。
精子無力症に対する鍼灸の位置づけ
男性不妊に対する鍼灸については、精子濃度や運動性などを評価した研究がありますが、研究の規模が小さく、方法にもばらつきがあります。
鍼灸単独で精子運動率を高められる、自然妊娠率や出産率を高められると断定できる段階ではありません。
そのため、精液所見に異常がある場合は、まず泌尿器科などで原因を確認することが優先されます。鍼灸を受ける場合も、医学的な検査や治療と並行しながら、疲労、ストレス、睡眠、身体の痛みなどを支える目的で取り入れることが大切です。
当院では、精液検査の数値だけを見て「精子の質を上げる施術」と一律に考えることはしていません。良導絡測定や問診を通して、睡眠、疲労、胃腸の状態、冷え、首肩こり、腰痛、ストレスなどを確認します。医療機関での検査を優先しながら、妊活を続けるための体調管理をお手伝いすることが鍼灸の役割だと考えています。
夫婦で並行して検査を受けることが大切
今回の事例では、奥さまだけが治療を続けるのではなく、ご主人も精液検査を受けたことで、精子の運動性に関する課題が見つかりました。
不妊には、男性側の要因、女性側の要因、両方の要因、検査をしても原因を特定できない場合があります。
女性側の年齢や卵巣予備能によっては、男性側の検査結果を待ち過ぎず、人工授精や体外受精、顕微授精などを検討した方がよいこともあります。
どちらか一方だけが長期間通院するのではなく、可能な範囲で早い段階から二人で検査を受け、治療の優先順位を相談することが大切です。
医療機関へ相談したい目安
- 精液検査で運動率や精子濃度の低下を指摘された
- 再検査でも精液所見の異常が続いている
- 陰嚢の腫れ、痛み、左右差、しこりなどがある
- 過去に停留精巣、精巣炎、鼠径部の手術などを経験している
- 勃起や射精について悩みがある
- 月経周期が21日未満または35日を超えることが多い
- 月経が数か月来ないことがある
- 35歳以上で妊活を始めてから6か月以上妊娠していない
- 35歳未満で1年以上妊娠していない
年齢や既往歴、月経の状態によっては、上記の期間を待たずに検査を始めた方がよい場合があります。
まとめ
今回の事例では、奥さまに排卵障害、ご主人に精子無力症が見つかり、ご夫婦それぞれが必要な検査やケアに取り組みました。
ご主人はクリニックの指示に沿って漢方薬などを服用し、生活習慣を見直しました。奥さまは婦人科へ通院しながら、身体の不調に対する補完的なケアとして鍼灸を続けました。
漢方薬、サプリメント、生活習慣、鍼灸のいずれも、単独で妊娠や精液所見の改善を保証するものではありません。
大切なのは、どちらか一方に原因や負担を集中させず、夫婦それぞれの状態を確認し、医学的な検査や治療と日々の体調管理を組み合わせていくことです。
精子無力症でも自然妊娠できますか?
精子無力症と診断されても、自然妊娠の可能性が直ちになくなるわけではありません。運動率だけでなく、総運動精子数、女性側の年齢、排卵や卵管の状態などを総合して考えます。検査結果に応じて、タイミング法、人工授精、体外受精、顕微授精などが検討されます。
精液検査は一度受ければ十分ですか?
最初の結果が正常であれば一度で判断される場合がありますが、異常が見つかった場合は、複数回の検査が推奨されます。精液所見は体調や採取条件によって変動するためです。
漢方薬を飲めば精子運動率は上がりますか?
漢方薬を服用した研究はありますが、誰にでも同じ効果があるとは限らず、精子運動率や妊娠率への効果が確立しているとはいえません。自己判断で購入せず、医師や薬剤師へ相談してください。
排卵障害は鍼灸だけで整えられますか?
排卵障害の原因はさまざまであり、鍼灸だけで原因の診断や治療はできません。婦人科で必要な検査を受けたうえで、鍼灸は痛み、冷え、睡眠、胃腸の不調、ストレスなどの体調管理を支える方法として取り入れます。
夫婦で同時に検査を受けた方がよいですか?
不妊の原因には男性側と女性側の両方が関係することがあるため、可能であれば並行して検査を進めることが大切です。特に女性が35歳以上の場合や月経不順がある場合は、早めに医療機関へ相談しましょう。
📝こちらの記事もおすすめです
- 精子の質は何ヶ月で変わる?男性妊活を3ヶ月前から始めたい理由
精子がつくられる期間や、睡眠・食事・喫煙・飲酒・熱など、男性側が日常生活で見直したいポイントを詳しく解説しています。ご主人が「まず何から始めればよいのか」を整理したいときに役立つ記事です。 - 男性不妊に鍼灸は本当に効く?論文から読み解く精子所見への効果と妊娠率・できることできないこと
男性不妊に対して、鍼灸に期待できることと、鍼灸だけでは対応できないことを研究結果から整理しています。医療・生活習慣・鍼灸をどのように組み合わせるか考える際に参考になります。 - 排卵障害とは?不妊の原因として知っておきたい月経不順・無排卵・ホルモンバランスの関係
月経があっても排卵していない場合や、排卵障害で確認したい検査について解説しています。今回の事例にある女性側の排卵障害について、さらに詳しく知りたい方におすすめです。
📚参考文献
- WHO laboratory manual for the examination and processing of human semen, 6th edition
精液検査の方法や精子濃度、運動性などの評価についてまとめたWHOの検査マニュアル。 - Diagnosis and treatment of infertility in men: AUA/ASRM guideline part I
男性不妊の初期評価、精液検査の変動、夫婦を並行して評価する重要性について示した診療指針。 - EAU Guidelines on Sexual and Reproductive Health:Male Infertility
男性不妊の検査、生活習慣、治療方法などをまとめた欧州泌尿器科学会の診療指針。 - Fertility evaluation of infertile women: a committee opinion
月経周期や排卵状態を含む女性不妊の検査と、夫婦で評価を進める考え方について解説した資料。 - Effect of Bu-zhong-yi-qi-tang on seminal plasma cytokine levels in patients with idiopathic male infertility
特発性男性不妊の男性22人に補中益気湯を投与し、精漿中の物質などを調べた小規模な臨床研究。 - Acupuncture for oligospermia and asthenozoospermia: a systematic review and meta-analysis
乏精子症や精子無力症に対する鍼灸研究を検討し、精子運動性などへの効果には不明確な点が残るとした系統的レビュー。
この記事の監修者


院長:宇都宮 泰子
(うつのみや やすこ)
FEMICA認定妊活指導士/鍼灸学修士/MBA(経営管理修士)
はり師・きゅう師(国家資格)
- 日本フェムライフ統合ケア協会 代表理事
- 日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー
- 日本生殖医学会会員
不妊・不育症を専門とし、東洋医学と生殖医療の両面から体質改善をサポート。大学院研究員としての研究活動も行いながら、臨床現場で妊活支援に従事している。
※本記事は一般的な医学情報を提供するものであり、診断・治療を目的とするものではありません。治療方針は必ず主治医の指示に従ってください。
夫婦それぞれの妊活を、一緒に整えてみませんか?
精子の運動率や排卵について指摘されると、「どちらかに原因がある」と考えてしまい、ご夫婦のどちらか一方が負担を抱えてしまうことがあります。
妊活では、男性側と女性側の状態をそれぞれ確認し、必要な検査や治療を受けながら、睡眠、食事、疲労、ストレスなどの日々の体調も整えていくことが大切です。
大阪市都島区にある宇都宮鍼灸良導絡院では、月経周期やクリニックでの治療状況、精液検査の結果、冷え、睡眠、胃腸の不調、肩こり、腰痛などを伺い、お一人おひとりの状態に合わせた施術をご提案しています。
鍼灸は医療機関での検査や治療に代わるものではありませんが、妊活を続けるための体調管理として取り入れることができます。「夫婦でできることを始めたい」「何から整えればよいかわからない」という方も、どうぞお気軽にご相談ください🍀








精液検査の結果を見て、ご主人が「自分のせいだ」と責任を感じたり、夫婦で話しにくくなったりすることがあります。しかし、不妊の原因は男性と女性のどちらか一方だけにあるとは限りません。当院では、ご夫婦それぞれが必要な検査を受け、責任を押しつけ合わずに取り組めるようお伝えしています。