体外受精で受精率が低いのはなぜ?成熟卵・正常受精数の見方と次回の対策
採卵後に「卵子は採れたのに、受精したのは1個だけだった」「受精率が低いと言われた」と聞くと、「卵子の質が悪いの?」「次は顕微授精にしたほうがいい?」と不安になるかもしれません。
体外受精の受精率は、採卵した卵子の数だけでは判断できません。成熟卵が何個あり、どの方法で受精を試み、正常受精が何個確認されたかを分けて整理することが大切です。
- 受精率は「正常受精した数÷受精操作の対象となった卵子数」などで示されます。計算の分母は受精方法によって異なります。
- 成熟卵が少ないことと、成熟卵が受精しないことは異なる問題です。
- 受精率には卵子・精子の状態、受精方法、採卵数など複数の要因が関係します。
- 顕微授精(ICSI)は一部の症例で選択肢になりますが、すべての方に有利とは限りません。
- 一度の結果だけで次回の受精率や妊娠の可能性を断定することはできません。
体外受精の受精率とは?採卵数と正常受精数の違い
採卵結果を理解するには、「採れた卵子」「受精操作に用いた卵子」「正常受精した卵子」を区別する必要があります。
- 採卵数:採卵によって回収された卵子の数
- 成熟卵(MII卵)数:成熟段階に達した卵子の数。特に顕微授精では成熟を確認してから注入します。
- 媒精数・顕微授精実施数:受精操作を行った卵子の数
- 正常受精数:受精確認で正常受精と評価された卵子の数。典型的には2つの原核(2PN)が目安です。
通常の体外受精(ふりかけ法・c-IVF)では媒精した卵子数、顕微授精(ICSI)では注入した成熟卵数を分母に正常受精率を計算する指標が用いられています。そのため、「受精率40%」という数字だけを比べても、何を分母にしているか分からなければ正しく比較できません。
例:8個採卵して、正常受精が2個だった場合
例えば8個採卵し、成熟卵5個に顕微授精を行い、2個が正常受精したとします。このとき、顕微授精を行った成熟卵5個を分母にすると受精率は2÷5=40%です。一方、採卵数8個を分母にすると2÷8=25%ですが、これは同じ意味の受精率ではありません。
また、卵子が2個だけで正常受精が1個だった場合は50%、2個とも正常受精なら100%になります。対象の数が少ない周期は、1個の違いで割合が大きく変動します。
受精率は何%なら低い?数字の見方
研究では受精率の参考指標が示されています。2017年の「ウィーン・コンセンサス」では、生殖補助医療の培養室の品質管理に用いる指標として、通常の体外受精では60%以上、顕微授精では65%以上という習熟度の目安が提示されています。
ただし、これらは培養室全体の成績を評価するための指標であり、一人ひとりの患者さんの受精率がこの数値を下回れば異常、と診断する基準ではありません。 年齢、卵子数、精液所見、受精方法などによって状況が異なるため、個別の結果は主治医や培養士に確認しましょう。
受精率が低かったときに考えられる主な理由
1. 成熟卵が少なかった
採卵した卵子がすべて成熟しているとは限りません。特に顕微授精では成熟卵を対象にするため、未熟卵が多ければ受精操作に進める数も少なくなります。卵胞発育の状態や最終成熟を促す薬剤の使用状況などが、次回治療の検討材料になる場合があります。
これは「成熟卵を使ったのに受精しなかった」場合とは分けて考える必要があります。
2. 精子の状態や受精方法が関係した
通常の体外受精では、培養環境の中で精子が卵子に到達し、受精する必要があります。精液所見や精子の働きに関係する要因などによって、受精が成立しにくい場合があります。
一方、顕微授精では成熟卵の中に精子を直接注入しますが、注入すれば必ず受精するわけではありません。採卵当日の精液所見と受精方法、以前の受精結果を一緒に振り返ることが重要です。
3. 卵子の状態や受精後の活性化が関係した
受精には、卵子と精子が関わる複数の過程が必要です。顕微授精を行っても受精が成立しない場合には、卵子の活性化などに関係する要因が検討されることがあります。ただし、一度の受精結果から原因を特定できるとは限りません。
4. 採卵数が少なく、割合が大きく変わった
受精操作を行った卵子が1~3個など少数の場合、1個の差が受精率を大きく変えます。受精率の数字だけでなく、実際に正常受精した胚が何個あったかも合わせて確認しましょう。
正常受精(2PN)とは?受精確認で何を見ている?
受精確認では、卵子に現れる原核(PN)や極体などの所見を観察します。2つの原核(2PN)が確認されることが、正常受精の代表的な評価です。
ただし、観察する時点によって原核が確認できない場合もあります。2026年のESHREの推奨事項では、原核が見えない所見を一律に「未受精」と判断しないことも説明されています。検査表に「0PN」「1PN」「3PN」などと記載されていた場合、胚の扱いは施設の方針や詳しい所見によるため、培養士や主治医に確認してください。
次回は顕微授精にしたほうがいい?
通常の体外受精で受精が成立しなかった、または予想より少なかった場合、次回の顕微授精が検討されることがあります。ASRMの2026年の委員会見解でも、通常の体外受精で受精不良・受精不成立があった場合、顕微授精が次回の受精率を高める可能性が示されています。
一方で、男性側に明らかな要因がなく、過去に受精障害もなかった方に対して、すべての卵子へ一律に顕微授精を行えば出生率が高くなる、という根拠はありません。必要性は個別に検討されます。
通常の体外受精と顕微授精を分けて行う「スプリット法(併用法)」などが話題になる場合もありますが、実施可能かどうかは卵子数や施設の方針によります。適応については主治医へ相談してください。
受精率と胚盤胞到達率・妊娠率は同じではない
受精率は受精の成立を示す指標であり、その後の胚の発育や妊娠の可能性を直接表す数字ではありません。正常受精した胚が必ず胚盤胞になるわけではなく、胚盤胞に到達しても妊娠を保証するものではありません。
「受精が少なかった」のか、「受精した後に発育が止まった」のか、「発育したが凍結基準に達しなかった」のかを区別することで、次の診察で確認すべきことが変わります。
次の診察で確認したい6つの質問
- 採卵数、成熟卵数、受精操作を行った卵子数はそれぞれ何個でしたか?
- 正常受精(2PNなど)は何個で、受精異常の所見はありましたか?
- 今回の受精率は何個を分母に計算した数値ですか?
- 採卵当日の精液所見に、前回と異なる点はありましたか?
- 今回の受精方法を選んだ理由と、次回見直す余地はありますか?
- 今回の結果は受精段階の問題なのか、受精後の胚発育の問題なのか、どう整理すればよいですか?
培養結果の書面がある場合は、手元に置いて説明を受けると理解しやすくなります。結果が悪かった理由を一度の採卵で確定できない場合もあるため、次の選択肢を落ち着いて話し合うことが大切です。
まとめ|受精率だけでなく、成熟卵数と正常受精数を確認しよう
体外受精で受精率が低かったときは、採卵数から正常受精数までの流れを確認することが第一歩です。通常の体外受精と顕微授精では分母や受精の方法が異なり、同じ数字でも意味が変わります。一度の結果だけで判断せず、主治医や培養士と一緒に次の治療方針を考えていきましょう。
Q1. 受精率が40%だと低すぎますか?
A. 何個の卵子にどの方法で受精操作を行ったかによって意味が変わります。40%という数字だけで原因や今後の妊娠の可能性は判断できません。
Q2. 顕微授精に変えれば必ず受精率が上がりますか?
A. 必ず上がるわけではありません。通常の体外受精で受精障害があった場合などには選択肢になりますが、適応は個別に判断されます。
Q3. 精液検査が正常でも受精しないことはありますか?
A. あります。通常の精液検査だけで受精に関わるすべての要因を評価できるわけではありません。卵子・精子の状態や受精方法なども含めて検討します。
Q4. 受精率が低いと、胚盤胞にもならないのでしょうか?
A. 受精率と胚盤胞到達率は別の指標です。正常受精した胚の発育は、その後の培養結果を見て評価します。
Q5. 今回まったく受精しませんでした。次回も同じ結果になりますか?
A. 次回も同じ結果になるとは限りません。採卵数や成熟卵数、受精方法、精液所見、過去の治療経過をもとに、主治医と次の方法を検討しましょう。
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📚参考文献
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[1] ESHRE. Recommendations on Good Practice in the IVF Laboratory. 2026.
受精確認時の原核・極体の評価、培養室での基本的な管理方法を参考にしました。 -
[2] ASRM. Intracytoplasmic Sperm Injection for Nonmale Factor Indications: A Committee Opinion. 2026.
受精不良後の顕微授精の検討と、顕微授精の一律実施を推奨しない理由を参考にしました。 -
[3] ESHRE・Alpha Scientists. The Vienna Consensus: ART Laboratory Performance Indicators. 2017.
通常の体外受精と顕微授精の受精率の計算方法、培養室の品質管理指標を参考にしました。 -
[4] ASRM ReproductiveFacts. Assisted Reproductive Technologies: Patient Education Booklet.
採卵、受精、培養から胚移植までの一般的な流れを参考にしました。
この記事の監修者

院長:宇都宮 泰子 (うつのみや やすこ)
FEMICA認定妊活指導士/鍼灸学修士/MBA(経営管理修士)
はり師・きゅう師(国家資格)
- 日本フェムライフ統合ケア協会 代表理事
- 日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー
- 日本生殖医学会会員
不妊・不育症を専門とし、東洋医学と生殖医療の両面から体質改善をサポート。大学院研究員としての研究活動も行いながら、臨床現場で妊活支援に従事している。
※本記事は一般的な医学情報を提供するものであり、診断・治療を目的とするものではありません。治療方針は必ず主治医の指示に従ってください。
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受精結果が予想より少ないと、「前日に眠れなかったから」「食事が十分でなかったから」と生活の一場面に原因を求めてしまうことがあります。しかし、受精の成否を一つの行動だけで説明することはできません。まずはクリニックで培養結果を確認し、治療中の睡眠や疲労、緊張など気になる不調については無理のない範囲でご相談ください。