
着床不全(RIF)とは?良好胚でも着床しない原因・検査・治療を解説
「良好な胚を移植しているのに、なかなか着床しない」「何度か胚移植をしても妊娠判定が陰性だった」——。
このような場合に使われる言葉が、反復着床不全(RIF:Recurrent Implantation Failure)です。
ただし、1〜2回の胚移植が陰性だっただけで、すぐに「着床不全」と診断されるわけではありません。現在は、移植回数だけではなく、年齢、胚の発育段階、胚の染色体情報、これまでの治療歴などを含めて個別に評価する考え方が重視されています。
この記事では、着床不全(RIF)とはどのような状態なのか、考えられる原因、検査・治療の考え方、ERAや慢性子宮内膜炎、PGT-Aとの関係について整理します。
- RIFには世界共通の「○回失敗したら着床不全」という単一の定義はありません。
- 着床しない理由として、胚の染色体、子宮内の形態、慢性子宮内膜炎、内膜やホルモンなど複数の要因が考えられます。
- ERA・免疫検査・ビタミンD検査などを、RIFの方全員に一律に行う根拠は十分ではありません。
- 検査をむやみに増やすのではなく、これまでの移植歴や検査結果を主治医と振り返ることが重要です。
- 鍼灸はRIFそのものを治療する方法ではなく、不妊治療と並行した体調管理の一つとして考えます。


着床不全(RIF)とは?何回失敗すると該当する?
反復着床不全(RIF)には、現在も世界で統一された単一の診断基準がありません。
以前は「良好胚を3〜4回移植しても妊娠しない」など、移植回数を基準とする定義がよく使われていました。
しかし現在は、同じ移植回数でも、年齢や胚の状態によって本来期待される着床の可能性が異なるため、患者さんごとの妊娠・着床の可能性を考慮して判断する方向へ変わっています。
ESHRE(欧州生殖医学会)は、胚移植によって期待される累積着床確率をもとに個別評価する考え方を示しています。またASRM(米国生殖医学会)も2026年の委員会見解で、年齢や胚の染色体情報などを踏まえた評価を提案しています。
そのため、「2回陰性だったからRIF」「3回陰性なら必ず詳しい検査が必要」と単純に判断するものではありません。
良好胚でも着床しない原因は一つではありません
着床は、胚だけでなく、子宮内膜、ホルモン、子宮内の形態、胚移植の方法など、多くの要素が関係する複雑な過程です。
また、検査をしても明確な原因が特定できないことがあります。
1. 胚側の要因|見た目が良好でも染色体が正常とは限らない
着床しない原因を考えるうえで重要なのが、胚の染色体です。
胚盤胞のグレードは胚の「見た目」を評価したものであり、グレードが良好だからといって染色体が正常であるとは限りません。
胚の染色体異数性は女性の年齢とともに増える傾向があるため、年齢やこれまでの治療経過によっては、主治医とPGT-Aについて相談することがあります。
ただし、PGT-Aを行えばすべての方の生児獲得率が高くなると証明されているわけではなく、RIFに対して必ず行う検査でもありません。メリット・デメリット、胚の数、年齢などを含めて検討する必要があります。
2. 子宮の形や子宮内腔の問題
胚を受け入れる子宮側についても確認します。
- 子宮内膜ポリープ
- 粘膜下筋腫
- 子宮内癒着
- 子宮奇形
- 卵管水腫
などがある場合は、着床に影響する可能性があります。
超音波検査、子宮鏡検査、子宮卵管造影、ソノヒステログラフィーなどが検討されることがあります。
特に胚移植を繰り返している場合には、以前問題がなかった方でも、必要に応じて子宮内腔を再評価することがあります。
3. 子宮内膜の厚さや黄体ホルモン
子宮内膜の厚さや、胚移植周期における黄体ホルモン(プロゲステロン)の状態も確認されることがあります。
内膜が薄い状態が続いている場合には、使用しているホルモン剤や子宮内の状態などを含めて原因を検討します。
また、凍結胚移植周期ではプロゲステロンの投与方法や血中濃度について検討される場合がありますが、RIFに対する最適な投与方法が一つに決まっているわけではありません。
4. 慢性子宮内膜炎(CE)
慢性子宮内膜炎(CE:Chronic Endometritis)は、子宮内膜に慢性的な炎症が続いている状態です。
症状がほとんどないこともあり、子宮内膜組織を採取し、CD138陽性形質細胞などを確認して診断することがあります。
RIFの方では慢性子宮内膜炎の検査を検討することがありますが、CD138陽性細胞を何個から異常とするかなど、診断基準は施設や研究によって異なります。
慢性子宮内膜炎と診断された場合には抗菌薬による治療が行われることがあり、治療後に改善が確認された方でその後の妊娠成績が良好だったという研究もあります。
ただし、これまでの研究には観察研究が多いため、「抗菌薬を飲めば着床率が上がる」と単純に考えるのではなく、検査結果に基づいて主治医と治療方針を相談することが大切です。
5. 着床の窓とERA検査
子宮内膜には、胚を受け入れやすい時期として「着床の窓(Window of Implantation)」という考え方があります。
ERAなどの子宮内膜受容能検査では、内膜組織の遺伝子発現などを調べ、胚移植のタイミングを調整する方法が提案されています。
初期の研究では個別化胚移植の有用性を示した報告もありましたが、その後の研究では結果が一致していません。
現在、ESHRE・ASRMともに、RIFの方すべてにERAをルーチンで行うだけの十分な根拠はないという立場です。
複数回の良好胚移植が陰性で、ほかに明らかな原因が見つからない場合などに、検査を行う意味があるか主治医と相談するとよいでしょう。
6. 免疫・血液凝固の問題
着床には免疫系も関わっているため、NK細胞、Th1/Th2、サイトカインなどに注目した検査や治療が行われることがあります。
しかし、現時点ではNK細胞検査などをRIFの方全員に行うことや、その結果だけをもとに免疫療法を行うことについて、十分な根拠は確立していません。
また、抗リン脂質抗体症候群は反復流産との関連が知られていますが、RIFだけを理由として抗リン脂質抗体や血栓性素因を一律に調べたり、ヘパリンなどを使用したりすることについても慎重な判断が必要です。
流産歴、血栓症の既往、家族歴などがある場合には、主治医へ伝えてください。
7. 甲状腺など全身の状態
甲状腺機能は妊娠を考えるうえで重要な項目の一つで、ARTの検査やRIFの評価の際に確認されることがあります。
一方、ビタミンDについては妊娠成績との関連を示した研究もありますが、RIFの方全員に血液検査や補充を行うことで妊娠成績が改善するとまでは分かっていません。
サプリメントを自己判断で増やすのではなく、必要性について医師へ相談しましょう。
着床不全が疑われたときに、まず見直したいこと
胚移植が繰り返し陰性だった場合、追加検査を次々に受ける前に、これまでの治療経過を整理することが重要です。
- 何歳のときに採卵した胚なのか
- 初期胚か胚盤胞か
- 胚盤胞のグレードや発育日数
- PGT-Aを実施しているか
- 自然周期かホルモン補充周期か
- 子宮内膜の厚さ
- 黄体ホルモンの投与方法
- 胚移植時に難しい操作がなかったか
- 子宮鏡などで子宮内腔を確認しているか
- 慢性子宮内膜炎について検討したことがあるか
- 子宮内膜症・子宮腺筋症・卵管水腫などがないか
これらを主治医と一つずつ確認することで、「次に何を調べるべきか」が見えやすくなります。
着床不全の治療は「原因に合わせる」ことが基本です
RIFには、すべての方に共通する一つの治療法があるわけではありません。
子宮内にポリープ・粘膜下筋腫・癒着などがある場合
子宮鏡などで状態を確認し、必要に応じて治療を検討します。
慢性子宮内膜炎が確認された場合
主治医の判断で抗菌薬による治療が行われることがあります。治療後の再検査についても施設によって考え方が異なるため、担当医と相談してください。
胚の染色体について確認したい場合
年齢、これまでの移植回数、凍結胚の数などを踏まえて、PGT-Aのメリットとデメリットを生殖医療専門医と相談します。
ERAなどの追加検査を検討する場合
「RIFだから全員受ける」という検査ではありません。これまでの移植歴や他の検査結果を確認したうえで、結果によって実際の治療方針が変わるのかまで考えて選択することが大切です。
免疫療法などの追加治療
タクロリムス、イントラリピッド、IVIG、G-CSFなど、着床を目的としたさまざまな追加治療がありますが、RIFに対する有効性が十分に確立していないものもあります。
「追加すればするほど妊娠しやすくなる」というものではないため、期待できる効果、リスク、費用、根拠を主治医から説明してもらったうえで判断しましょう。
着床不全と鍼灸|どのように考えればよい?
鍼灸についても、着床不全そのものを治療したり、胚移植後の妊娠率や生児獲得率を確実に高めたりすることが証明されているわけではありません。
IVFと鍼灸についてはさまざまな研究がありますが、結果にはばらつきがあります。大規模な無作為化比較試験では、鍼治療群と偽鍼群で生児獲得率に明確な差は認められませんでした。
そのため当院では、鍼灸をRIFの原因に対する治療の代わりとは考えていません。
胚移植を繰り返している時期には、通院や検査による緊張、睡眠の乱れ、首肩こり、冷え感、疲労など身体的・精神的な負担を感じる方も少なくありません。
鍼灸は、こうした妊活中の体調管理やコンディション調整を支える補助的なケアとして、病院での治療と並行して取り入れる方法の一つと考えています。
日常生活で「着床させなければ」と頑張りすぎないことも大切です
胚移植が陰性になると、「仕事をしたから」「運動したから」「身体を冷やしたから」など、ご自身の行動が原因だったのではないかと考えてしまう方もいます。
しかし、着床は胚と子宮内膜を中心とした複雑な生物学的過程です。日常生活の一つの行動だけで結果を説明できるものではありません。
基本的には、禁煙、バランスのよい食事、適度な運動、十分な休養と睡眠など、一般的な健康管理を続けることをおすすめします。
特別な食品やサプリメントを大量に摂ったり、自己判断で薬を中止・追加したりする必要はありません。
何度も胚移植が陰性だったら主治医に相談してみましょう
良好胚やPGT-A正常胚を複数回移植しても妊娠に至らない場合や、これまでの検査・移植方法について疑問がある場合には、一度治療歴全体を主治医と振り返ってみましょう。
「どの検査を追加するか」だけでなく、これまで確認済みの項目は何か、次の検査によって治療方針が変わる可能性があるのかを確認することも大切です。
良好胚を移植しても結果につながらない経験が続くと、「まだ何か検査が足りないのでは」と不安になる方も少なくありません。
一方で、着床不全については、検査や追加治療の中にも医学的な根拠が十分に確立していないものがあります。
検査を増やすこと自体を目的にするのではなく、これまでの治療歴を整理し、必要な検査について主治医と相談しながら次の移植を考えていくことが大切です。当院でも、治療状況を伺いながら妊活中の体調管理をサポートしています。
Q. 胚移植が2回陰性でした。着床不全でしょうか?
A. 移植回数だけでRIFとは判断できません。年齢、胚の状態、PGT-Aの有無などによって期待される着床率が異なるため、治療歴を含めて主治医に確認しましょう。
Q. 良好胚なのに着床しないのはなぜですか?
A. 胚盤胞のグレードは主に形態評価です。染色体の状態までは分からないほか、子宮内腔、慢性子宮内膜炎、ホルモンなど複数の要因が関係する可能性があります。
Q. ERA検査は受けた方がよいですか?
A. 現時点ではRIFの方全員にERAを行うことは推奨されていません。他の検査結果やこれまでの移植歴を踏まえ、検査結果によって治療方針が変わるかを主治医と相談して判断します。
Q. PGT-A正常胚でも着床しないことはありますか?
A. あります。PGT-Aで染色体数が正常と判定された胚でも、すべてが必ず着床するわけではありません。複数回続く場合は子宮内の状態や移植周期なども含めて評価します。
Q. 着床不全に鍼灸は効果がありますか?
A. 鍼灸によってRIFが治る、または生児獲得率が高くなると断定できる根拠はありません。当院では、不妊治療を優先しながら、睡眠や疲労、首肩こりなど妊活中の体調管理を支える補助的なケアとして行っています。
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📚参考文献
- [1] American Society for Reproductive Medicine. Recurrent implantation failure: a committee opinion. 2026.
RIFの定義、子宮内評価、慢性子宮内膜炎、ERA、PGT-A、免疫・凝固検査などの2026年時点の考え方をまとめた委員会見解です。 - [2] ESHRE Working Group on Recurrent Implantation Failure. ESHRE good practice recommendations on recurrent implantation failure. Human Reproduction Open. 2023.
RIFを固定した移植回数だけでなく、患者ごとの累積着床確率を考慮して評価する考え方や、各検査・治療の推奨度を示しています。 - [3] Doyle N, et al. Effect of Timing by Endometrial Receptivity Testing vs Standard Timing of Frozen Embryo Transfer on Live Birth in Patients Undergoing In Vitro Fertilization. JAMA. 2022.
子宮内膜受容能検査による個別化胚移植と標準的な胚移植を比較した無作為化比較試験です。 - [4] Cheng X, et al. Does antibiotic therapy for chronic endometritis improve clinical outcomes of patients with recurrent implantation failure in subsequent IVF cycles? J Assist Reprod Genet. 2022.
RIF患者における慢性子宮内膜炎の抗菌薬治療と、その後のIVF成績について検討したシステマティックレビュー・メタ解析です。 - [5] American Society for Reproductive Medicine. The use of preimplantation genetic testing for aneuploidy: a committee opinion. 2024.
PGT-Aの有用性と限界についてまとめられており、すべてのIVF患者へのルーチン使用による利益は確立していないとしています。 - [6] Smith CA, et al. Effect of Acupuncture vs Sham Acupuncture on Live Births Among Women Undergoing In Vitro Fertilization. JAMA. 2018.
IVF周期における鍼治療と偽鍼を比較し、生児獲得率に明確な差を認めなかった大規模無作為化比較試験です。
この記事の監修者


院長:宇都宮 泰子
(うつのみや やすこ)
FEMICA認定妊活指導士/鍼灸学修士/MBA(経営管理修士)
はり師・きゅう師(国家資格)
- 日本フェムライフ統合ケア協会 代表理事
- 日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー
- 日本生殖医学会会員
不妊・不育症を専門とし、東洋医学と生殖医療の両面から体質改善をサポート。大学院研究員としての研究活動も行いながら、臨床現場で妊活支援に従事している。
※本記事は一般的な医学情報を提供するものであり、診断・治療を目的とするものではありません。治療方針は必ず主治医の指示に従ってください。
胚移植を繰り返していて、身体のことも相談したい方へ
良好胚を移植しても結果につながらない状態が続くと、「次は何をしたらいいのだろう」と不安になることもあると思います。
着床不全については、まずこれまでの治療内容や検査結果を主治医と確認し、必要な検査・治療を整理することが大切です。
大阪市都島区にある宇都宮鍼灸良導絡院では、病院での不妊治療を優先しながら、採卵や胚移植のスケジュール、現在のお身体の状態を伺い、妊活中の体調管理やコンディション調整をサポートしています。
移植を繰り返す中で疲れや睡眠、首肩こりなどの不調が気になっている方や、病院での治療と並行して身体を整えていきたい方もお気軽にご相談ください🍀







