精子の運動率が低いと言われたら?WHO基準と自然妊娠・人工授精の考え方
「精液検査で、精子の運動率が20%と言われた」
「運動率が30%しかないけれど、自然妊娠できる?」
「精子の数は問題ないのに、動きが悪いと言われた」
妊活中に精液検査を受け、精子の運動率が低いと指摘されると、妊娠への影響が心配になる方も多いのではないでしょうか。
精子は卵子と出会うために移動する必要があるため、精子の運動性は男性の生殖機能を評価する重要な項目の一つです。
しかし、精子の運動率が低いからといって、必ずしも自然妊娠できないわけではありません。
世界保健機関(WHO)の精液検査マニュアル第6版では、総運動率の下限参考値は42%、前進運動率は30%とされています。
ただし、これらは妊娠できる男性と妊娠できない男性を分ける基準ではありません。
妊娠の可能性を考えるためには、運動率だけでなく、精液量、精子濃度、運動している精子の総数、女性側の年齢や不妊原因なども確認する必要があります。
また、運動率が低くなる原因には、精索静脈瘤、発熱、生活習慣、感染症などが関係する場合があり、原因に応じて治療を検討できることもあります。
この記事では、精子の総運動率と前進運動率の違い、WHOの下限参考値、運動率20%・30%の考え方、再検査の必要性、自然妊娠・人工授精・体外受精の選択肢を詳しく解説します。
- WHO第6版の下限参考値は総運動率42%、前進運動率30%
- 総運動率は動いている精子の割合、前進運動率は前へ進む精子の割合
- 運動率20%・30%でも、それだけで自然妊娠できないとは判断できない
- 精子濃度や精液量を合わせた「総運動精子数」も重要
- 精索静脈瘤、発熱、感染症などが運動率低下に関係する場合がある
- 精液検査は変動するため、必要に応じて再検査を行う
- 人工授精では洗浄・濃縮後に得られる運動精子数も確認する
- サプリメントによって妊娠率が確実に改善するという根拠は確立されていない
- 運動率の低下が続く場合は、男性不妊を扱う泌尿器科へ相談する
精子の運動率が低いと妊娠しにくい?
精子の運動率は、精液中の精子のうち、どのくらいの割合が動いているかを示す検査項目です。
自然妊娠では、射精された精子が女性の生殖器内を移動し、卵管付近で卵子と出会う必要があります。
そのため、精子の動きは受精に関係する重要な機能の一つです。
運動率が低い場合、受精する場所まで到達できる精子が少なくなる可能性があります。
ただし、運動率だけで受精の可能性が決まるわけではありません。
運動率が低くても自然妊娠する可能性はある
精液検査で運動率が参考値を下回っていても、自然妊娠に至る方はいます。
精子の数が多い場合、運動率が低くても、運動している精子が一定数存在することがあります。
一方で、運動率が比較的良好でも、精子そのものの数が少ない場合には、運動している精子の総数が少なくなることがあります。
また、自然妊娠には女性側の年齢、卵管の状態、排卵時期なども関係します。
運動率の数字だけで自然妊娠できる・できないを判断することはできません。
精子無力症とは?
精子の運動性が低下している状態は、「精子無力症(asthenozoospermia)」と呼ばれることがあります。
精液検査で運動率が低い場合に用いられる言葉ですが、原因は一つではありません。
また、精液検査の数値は採精条件や検査時期によって変わることがあります。
一度の検査で運動率が低かったからといって、今後もずっと同じ状態が続くと決まるわけではありません。
運動率の低下が確認された場合は、必要に応じて再検査や男性不妊の専門的な評価を受けることが大切です。
精子の運動率の正常値は?WHO第6版の基準
精液検査の結果を見る際に、よく参考にされるのがWHOの精液検査マニュアルです。
WHO第6版(2021年)では、妊娠が成立したカップルの男性の精液検査データをもとに、各項目の下限参考値が示されています。
これらは妊娠に至った男性の検査値の分布における下位5パーセンタイル値であり、不妊を確定する診断基準ではありません。
総運動率42%・前進運動率30%が下限参考値
| 検査項目 | WHO第6版の下限参考値 |
|---|---|
| 精液量 | 1.4mL |
| 精子濃度 | 1mLあたり1,600万個 |
| 総精子数 | 1回の射精あたり3,900万個 |
| 総運動率 | 42% |
| 前進運動率 | 30% |
| 正常形態率 | 4% |
※WHO第6版の下位5パーセンタイル値です。下回った場合も妊娠の可能性がなくなるわけではなく、上回っていても妊娠が保証されるわけではありません。
例えば、総運動率が35%だった場合は、42%という下限参考値より低い結果です。
ただし、その数字だけで自然妊娠の可能性がどの程度あるかを予測することはできません。
精子濃度や総精子数、前進運動率、その他の不妊原因なども合わせて評価する必要があります。
以前は運動率40%と聞いたけれど、基準が変わった?
WHO第5版(2010年)では、総運動率の下限参考値は40%、前進運動率は32%でした。
その後、2021年の第6版では、総運動率42%、前進運動率30%となっています。
これは参考集団のデータに基づく変更です。
そのため、精液検査の結果を比較するときは、どの版の参考値が使われているかにも注意しましょう。
総運動率と前進運動率は何が違う?
精液検査では、単に「運動率」と書かれている場合もあれば、「総運動率」「前進運動率」と分かれている場合もあります。
この2つは似ていますが、意味が異なります。
総運動率とは?
総運動率は、精液中に存在する精子のうち、動いている精子全体の割合です。
前へ進む精子だけでなく、その場で動いている精子も含みます。
WHOでは、運動の状態を大きく次の3つに分類します。
- 前進運動(PR):前方へ移動している精子
- 非前進運動(NP):動いているが、前方へ十分に進んでいない精子
- 不動(IM):動きが確認できない精子
総運動率は、前進運動と非前進運動を合わせた割合です。
総運動率=前進運動率+非前進運動率
前進運動率とは?
前進運動率は、精子が前方へ移動している割合を示します。
精子が卵子のある場所へ移動するためには、前進する能力が重要です。
そのため、総運動率だけでなく、前進運動率も確認する必要があります。
例えば、総運動率が50%でも、そのうち前進している精子が20%しかいない場合には、前進運動率が下限参考値を下回っています。
総運動率が正常でも前進運動率が低いことはある
例えば、次のような検査結果だったとします。
- 総運動率:50%
- 前進運動率:20%
- 非前進運動率:30%
- 不動精子:50%
この場合、総運動率はWHOの下限参考値42%を上回っています。
しかし、前進運動率は30%を下回っています。
このように、総運動率が参考値以上でも、前進する精子の割合が少ない場合があります。
検査結果に「運動率30%」と書かれていた場合、それが総運動率なのか前進運動率なのかを確認することが大切です。
精子の運動率が20%・30%でも自然妊娠できる?
運動率が参考値より低いと言われた場合、具体的な数字が気になる方も多いと思います。
ただし、運動率20%なら妊娠率は何%、30%なら何%と、一つの数字で示すことはできません。
運動率以外の精液検査項目や、ご夫婦の状況によって妊娠の可能性が異なるためです。
運動率20%の場合
総運動率20%は、WHO第6版の下限参考値42%より低い状態です。
精子の動きが少ないため、受精に必要な場所まで移動できる精子が少なくなる可能性があります。
一方で、精子濃度が高い場合には、運動している精子が一定数存在することもあります。
そのため、運動率20%という結果だけで自然妊娠が不可能とは判断できません。
ただし、低い状態が繰り返される場合は、男性不妊を扱う泌尿器科で原因を確認することをおすすめします。
運動率30%の場合
総運動率30%の場合、WHO第6版の下限参考値42%を下回ります。
一方、前進運動率30%であれば、その項目についてはWHOの下限参考値に相当します。
そのため、「運動率30%」という数字を見るときは、まず検査項目を確認することが必要です。
また、運動率30%だから必ず人工授精が必要になる、というわけではありません。
精子濃度、総精子数、不妊期間、女性側の状態などを合わせて判断します。
運動率が10%以下の場合
総運動率が10%以下など、著しく低い場合には、運動している精子の数が少なくなる可能性があります。
ただし、10%という数字だけで自然妊娠や人工授精の可否を判断することはできません。
精子濃度や総運動精子数、前進運動率などを確認し、必要に応じて男性不妊の専門医による評価を受けましょう。
また、運動率が0%に近い場合には、精子が生きているものの動けない状態なのか、精子の生存性にも問題があるのかを確認することが重要です。
運動率だけでは分からない「総運動精子数」とは?
精子の運動率を考えるときに、もう一つ重要なのが「総運動精子数(TMSC:Total Motile Sperm Count)」です。
総運動精子数とは、1回の射精で得られた精液の中に、運動している精子が全部で何個いるかを示す指標です。
一般的には、次のように計算します。
総運動精子数=精液量(mL)×精子濃度(個/mL)×総運動率
※運動率は20%なら0.20、30%なら0.30として計算します。前進運動精子数を求める場合は、前進運動率を使用します。
例1:運動率20%でも運動精子が多い場合
例えば、精液検査で次のような結果だったとします。
- 精液量:3.0mL
- 精子濃度:1mLあたり5,000万個
- 総運動率:20%
この場合、総運動精子数は次のようになります。
3.0 × 5,000万 × 0.20 = 3,000万個
運動率そのものは20%と低くても、精子濃度が高いため、運動している精子が3,000万個存在する計算です。
ただし、総運動精子数が多いからといって、妊娠が保証されるわけではありません。
例2:運動率40%でも運動精子が少ない場合
次のような結果だった場合はどうでしょうか。
- 精液量:2.0mL
- 精子濃度:1mLあたり500万個
- 総運動率:40%
2.0 × 500万 × 0.40 = 400万個
この場合、運動率は40%ですが、精子濃度が少ないため、総運動精子数は400万個となります。
つまり、運動率が高いか低いかだけではなく、実際に運動している精子が何個いるのかも重要です。
運動率が低いと言われた場合は、精液量や精子濃度も合わせて確認しましょう。
精子の運動率が低くなる原因は?
精子の運動率が低くなる原因には、精巣や精路の状態、発熱、生活習慣など、さまざまな要因が考えられます。
ただし、実際には原因を特定できない場合もあります。
1. 精索静脈瘤
精索静脈瘤は、精巣から心臓へ戻る静脈の血液がうっ滞し、陰嚢内の静脈が拡張する状態です。
男性不妊と関連する代表的な疾患の一つであり、精子濃度や運動率、精子DNAの状態などに影響する場合があります。
精索静脈瘤があると、精巣周囲の温度や酸化ストレスなどに影響する可能性が考えられています。
ただし、精索静脈瘤がある方すべてで精液所見が悪くなるわけではありません。
妊娠を希望していて、触診で確認できる精索静脈瘤と精液検査の異常がある場合には、医師が手術などの治療を検討することがあります。
治療が必要かどうかは、精液検査の結果やご夫婦の治療方針を踏まえて判断されます。
2. 発熱や感染症
高熱が出たあとに、精液検査の数値が一時的に変化することがあります。
精子が作られるまでには約2〜3か月かかるため、採精当日の体調だけでなく、数週間から数か月前の体調も関係する場合があります。
例えば、精液検査の1〜2か月前に高熱を伴う感染症にかかっていた場合には、その影響が残っている可能性があります。
ただし、発熱した方すべてで運動率が低下するわけではありません。
また、精巣上体炎などの生殖器の炎症や感染症が関係している場合もあります。
発熱歴や感染症の症状がある場合は、医師に伝えておきましょう。
3. 喫煙・過度な飲酒・肥満など
喫煙や過度な飲酒、肥満などは、男性の生殖機能や精液所見に関係する可能性があります。
また、睡眠不足や慢性的なストレスなどと精液の状態との関連を調べた研究もあります。
ただし、これらの要因と運動率の関係は複雑であり、一つの生活習慣だけが原因とは限りません。
健康管理のために禁煙、節酒、適切な体重管理などを意識することは大切ですが、それだけで運動率が必ず改善するわけではありません。
4. 熱への過度な曝露
精巣では、体温よりやや低い温度が精子形成に適していると考えられています。
長時間の高温環境や頻繁な熱への曝露が精液所見に影響する可能性について研究されています。
例えば、長時間のサウナや熱いお風呂などが気になる方もいらっしゃると思います。
ただし、入浴やサウナを一度利用しただけで、必ず精子の運動率が低下するという意味ではありません。
日常的に長時間の高温環境にさらされている場合などは、生活習慣を見直すことを検討しましょう。
5. 薬・ホルモン・その他の病気
服用している薬やホルモンの異常、精巣の病気などが精子の状態に影響する場合があります。
また、まれに精子の尾部の構造や働きに関係する病気が原因となり、精子がほとんど動かない状態になることもあります。
特に運動率が非常に低い状態が繰り返される場合は、必要に応じて専門的な検査を検討します。
妊活中の男性は、テストステロン製剤の使用にも注意が必要です。
外部からテストステロンを補充すると、精子形成が抑制される場合があります。
処方薬を使用している場合は、自己判断で中止せず、妊娠を希望していることを医師に伝えてください。
6. 原因がはっきり分からない場合
精液検査で運動率が低くても、検査や診察で明確な原因が見つからない場合があります。
これは特発性男性不妊などと呼ばれることがあります。
原因が分からない場合でも、必要な検査を行い、精液所見や不妊期間、ご夫婦の年齢などを踏まえて今後の治療を検討します。
精子の運動率が低かったら再検査は必要?
精液検査は、一度の結果だけで判断することが難しい検査です。
精子の数や運動率などは、同じ男性でも検査する日によって変化する場合があります。
そのため、初回の精液検査で異常を指摘された場合には、必要に応じて再検査が行われます。
1回だけ運動率が低くても、確定とは限らない
AUA/ASRMの男性不妊診療ガイドラインでは、精液検査の数値には変動があるため、特に初回検査で異常がみられた場合は、少なくとも2回の結果を確認することが重要とされています。
ただし、運動率が非常に低い場合や、他の精液検査項目にも大きな異常がある場合は、早めの再検査や専門医の診察が必要になることがあります。
再検査は何日後・何か月後がいい?
再検査の時期は、初回の検査結果や採精条件、発熱歴などによって異なります。
AUA/ASRMのガイドラインでは、特に異常がある場合、約1か月以上の間隔を空けた複数回の精液検査が重要とされています。
また、発熱などによる一時的な影響が疑われる場合には、精子形成の期間を考慮して2〜3か月程度の経過をみて再検査する場合もあります。
ただし、すべての方が3か月待つ必要はありません。
年齢や不妊期間、精液所見の程度などを考慮し、再検査の時期を医師と相談しましょう。
採精方法や検体の取り扱いにも注意
精子の運動率は、検体を採取してから検査するまでの時間や温度管理などによっても影響を受けることがあります。
WHO第6版では、精液検査における標準的な禁欲期間として2〜7日が示されています。
また、精液の状態を正確に調べるためには、採精後できるだけ速やかに検査を開始することが重要です。
自宅で採精する場合は、次のような点を確認しておきましょう。
- クリニックから指定された禁欲期間を守る
- 専用の清潔な容器を使用する
- 検体の取りこぼしがあった場合は伝える
- 指定された時間内に検体を提出する
- 高温や低温にさらさず、施設の指定する方法で運ぶ
- 通常のコンドームや潤滑剤を自己判断で採精に使わない
精液検査の条件が異なると、結果の比較が難しくなる場合があります。
検査方法について不明な点があれば、採精前にクリニックへ確認しましょう。
運動率が0%に近い場合は「精子の生存率」も重要
精子の運動率が極端に低い場合は、動いていない精子が生きているかどうかを確認することがあります。
精子が動いていない状態と、精子が死んでいる状態は同じではありません。
一部には、生きていても運動できない精子が存在する場合があります。
精子生存率(vitality)の検査では、精子が生存しているかどうかを評価します。
WHO第6版の精子生存率の下限参考値は54%ですが、これも妊娠の可否を判断する絶対的な基準ではありません。
運動率が0%など、極端に低い状態が確認された場合は、男性不妊の専門医に早めに相談することが大切です。
精子の運動率が低い場合、人工授精はできる?
人工授精(AIH・IUI)では、採取した精液を洗浄・濃縮し、運動性のある精子を子宮内へ注入します。
そのため、人工授精では運動率の割合だけでなく、実際に得られる運動精子の数が重要になります。
人工授精では洗浄後の運動精子数を確認する
人工授精のために精液を処理すると、精液量や精子濃度、運動精子の割合などが変化します。
そのため、もとの精液で計算した総運動精子数と、洗浄・濃縮後に得られる運動精子数は同じではありません。
AUA/ASRMの男性不妊診療ガイドラインでは、精液処理後の総運動精子数が500万個未満の場合、人工授精による妊娠の可能性が低くなると説明されています。
ただし、これは「500万個未満なら人工授精ができない」という絶対的な基準ではありません。
人工授精の成績は女性側の年齢、排卵の状態、不妊期間、精液の処理方法などによっても異なります。
そのため、洗浄後の運動精子数が少ない場合は、実際の治療成績や今後の方針について主治医と相談することが大切です。
運動率20%でも人工授精できる?
運動率20%であっても、精子濃度や精液量によっては、人工授精に必要な運動精子が得られる場合があります。
反対に、運動率が比較的高くても、精子濃度が低い場合には、洗浄後に得られる運動精子数が少なくなることがあります。
そのため、運動率20%だから人工授精は不可能、30%だから問題ない、と一律に判断することはできません。
人工授精の可否については、実際の精液所見と治療歴を踏まえて判断されます。
自然妊娠・人工授精・体外受精・顕微授精の選び方
精子の運動率が低い場合でも、すべての方が同じ不妊治療を受ける必要があるわけではありません。
年齢、不妊期間、精子の数や運動性、女性側の検査結果などを踏まえて、治療の選択肢を考えます。
| 治療方法 | 運動率が低い場合の考え方 |
|---|---|
| 自然妊娠・タイミング法 | 運動精子が一定数あり、他の条件に問題がなければ妊娠の可能性がある |
| 人工授精 | 精液処理後に得られる運動精子数などを踏まえて判断する |
| 体外受精(通常媒精) | 採取できる精子の数や運動性、過去の受精成績などを踏まえて検討する |
| 顕微授精(ICSI) | 運動精子数が著しく少ない場合や、通常媒精で受精が難しい場合などに検討される |
※実際の治療方針は精液検査の結果だけでは決まりません。女性側の状態やこれまでの治療経過を含めて判断されます。
体外受精と顕微授精では何が違う?
通常の体外受精では、採取した卵子の周囲に精子を加え、精子が自ら卵子に侵入して受精することを目指します。
一方、顕微授精では、胚培養士が1個の精子を選び、卵子の中へ直接注入します。
そのため、精子数や運動性が著しく低下している場合などには、顕微授精が検討されることがあります。
ただし、顕微授精であれば必ず受精する、必ず妊娠できるというわけではありません。
また、運動率が低いという理由だけで、必ず顕微授精が必要になるわけでもありません。
卵子の状態、精液検査の結果、過去の受精成績などを踏まえて医師と相談しましょう。
精子の運動率を改善する方法はある?
精子の運動率が低いと言われた場合、「生活習慣を変えれば改善する?」「サプリメントは飲んだ方がいい?」と考える方もいらっしゃると思います。
しかし、運動率が低くなる原因は人によって異なります。
そのため、すべての方に同じ改善方法が有効とは限りません。
1. 治療できる原因がないか確認する
精索静脈瘤やホルモンの異常、感染症などがある場合には、医療機関で原因に応じた治療を検討することがあります。
精索静脈瘤では、条件に合う方に手術などを行うことで、精液所見や妊娠成績の改善が期待される場合があります。
ただし、すべての精索静脈瘤に手術が必要なわけではありません。
運動率の低下が続く場合は、自己流の対策だけで様子を見続けず、男性不妊を扱う泌尿器科で相談しましょう。
2. 禁煙・節酒・体重管理を意識する
喫煙や過度な飲酒、肥満などは、男性の生殖機能に影響する可能性があります。
そのため、禁煙や節酒、適切な体重管理は、妊活中の基本的な健康管理として大切です。
ただし、これらを行えば精子の運動率が必ず改善するわけではありません。
無理なダイエットや急激な生活習慣の変更は避け、続けられる範囲で取り組みましょう。
3. 睡眠や生活リズムを整える
睡眠不足や不規則な生活が続くと、疲労やストレスが強くなる場合があります。
十分な睡眠を確保し、できる範囲で生活リズムを整えることは、健康管理として役立ちます。
ただし、睡眠時間を増やすことで精子の運動率が確実に改善するという根拠は確立されていません。
4. 長時間の高温環境を避ける
日常的に長時間のサウナや高温環境にさらされている場合には、頻度や利用時間を見直すことを検討できます。
ただし、短時間の入浴やサウナを一度利用したことが、運動率低下の直接的な原因になったとは判断できません。
必要以上に温度を気にして日常生活の負担を増やすのではなく、無理のない範囲で見直しましょう。
5. サプリメントだけで改善しようとしない
男性妊活向けのサプリメントには、コエンザイムQ10、L-カルニチン、亜鉛、セレンなど、さまざまな成分があります。
これらの成分については、精子の運動率やその他の精液所見を改善する可能性を示した研究が報告されています。
しかし、研究によって対象者や摂取量、評価方法が異なり、結果にはばらつきがあります。
また、精液所見が改善することと、実際に妊娠・出産につながることは同じではありません。
AUA/ASRMの男性不妊診療ガイドラインでは、抗酸化サプリメントなどの有用性は不確実であり、特定の成分を一律に推奨するだけのデータは十分ではないとされています。
サプリメントだけで運動率の改善を目指すのではなく、必要な検査や治療を優先することが大切です。
男性妊活サプリについては、関連記事でも詳しく解説しています。
精子の運動率と鍼灸|研究から分かっていること
男性不妊に対する鍼灸については、精子の運動率や濃度などを対象とした研究が行われています。
一部の研究では精液所見の変化が報告されていますが、研究方法や対象者、施術内容が異なり、十分な質の医学的根拠がそろっているとはいえません。
また、精液検査の数値が変化したとしても、妊娠率や生児獲得率の改善につながるとは限りません。
鍼灸によって精子の運動率が確実に改善する、あるいは妊娠率が高まると断定できる段階ではありません。
運動率が低い原因として精索静脈瘤やホルモン異常、感染症などが疑われる場合は、泌尿器科での評価が必要です。
鍼灸は、医学的な検査や治療の代わりとしてではなく、日常的な体調管理を目的とした補助的なケアとして検討することが大切です。
宇都宮鍼灸良導絡院では、男性妊活についても、睡眠、疲労、冷え、ストレス、首肩の緊張などのお悩みを確認しながら、体調管理のサポートを行っています。
必要に応じて良導絡測定や東洋医学的な体質の見方も参考にしていますが、良導絡測定で精子の運動率や精子DNAの状態を評価することはできません。
また、運動率が低い原因を鍼灸だけで特定したり、精索静脈瘤などの病気を診断したりすることもできません。
当院では、男性不妊を扱う泌尿器科や不妊治療クリニックでの検査・治療を大切にしながら、生活習慣や身体の不調について補助的なサポートを行っています。
精液検査の結果が気になる方も、数字だけで今後の妊娠の可能性を決めつけず、ご夫婦それぞれの検査結果を踏まえて妊活の方針を考えていただきたいと思います。
精子の運動率が低いと言われたとき、病院で確認したいこと
精液検査で運動率が低いと言われた場合は、次のようなことを確認しておくと、今後の妊活や不妊治療の方針を考えやすくなります。
- 低かったのは総運動率か、前進運動率か
- 精子濃度や総精子数にも異常があるか
- 総運動精子数はどのくらいか
- 採精条件や最近の発熱が検査結果に影響していないか
- 再検査が必要か、いつ受けるべきか
- 精索静脈瘤などの病気が疑われないか
- ホルモン検査や身体診察が必要か
- 自然妊娠・タイミング法を継続してよいか
- 人工授精の場合、洗浄後の運動精子数はどのくらいか
- 体外受精や顕微授精を検討する必要があるか
運動率が低かった場合でも、すべての方に同じ検査や治療が必要になるわけではありません。
不妊期間や女性側の年齢、これまでの治療歴なども考慮しながら、主治医と相談していきましょう。
Q1. 精子の運動率が20%でも自然妊娠できますか?
運動率20%でも、自然妊娠の可能性がなくなるわけではありません。精子濃度や総精子数、女性側の状態などによって妊娠の可能性は異なります。ただし、WHOの下限参考値より低いため、必要に応じて再検査や男性不妊を扱う泌尿器科での相談をおすすめします。
Q2. 精子の運動率が30%と言われました。正常ですか?
総運動率30%であれば、WHO第6版の下限参考値42%を下回ります。一方、前進運動率30%は下限参考値に相当します。まずは検査結果の30%がどちらの項目を示しているか確認しましょう。
Q3. 精子の運動率が40%なら問題ありませんか?
総運動率40%はWHO第6版の下限参考値42%をわずかに下回ります。ただし、その数値だけで不妊が確定するわけではありません。前進運動率や精子濃度、総精子数なども合わせて評価することが大切です。
Q4. 精子の運動率が10%以下でも妊娠できますか?
運動率が著しく低い場合、自然妊娠の可能性が低くなることがあります。ただし、運動率だけでは判断できません。精子濃度や総運動精子数などを確認し、男性不妊の専門医と治療方針を相談しましょう。
Q5. 運動率が低い場合、人工授精はできますか?
運動率が低くても、人工授精に必要な運動精子が得られる場合は実施できることがあります。人工授精では洗浄・濃縮後に得られる運動精子数も重要です。運動率の割合だけで人工授精の可否が決まるわけではありません。
Q6. 精子の運動率は1か月で改善することがありますか?
精液検査の数値は時期によって変動するため、1か月後の再検査で結果が変わることはあります。ただし、生活習慣の変更や治療による効果を評価するには、精子形成の期間を考慮して数か月の経過が必要になる場合もあります。
Q7. 発熱したあとに精子の運動率が下がることはありますか?
あります。高熱を伴う病気のあとには、精液所見が一時的に変化する場合があります。影響が数週間から数か月続くこともあるため、精液検査前に発熱したことがある場合は医師に伝えましょう。
Q8. 精子の運動率を上げるサプリメントはありますか?
コエンザイムQ10やL-カルニチンなどについては、運動率への影響を調べた研究があります。ただし、研究結果にはばらつきがあり、妊娠率や生児獲得率の改善まで十分に確認されているわけではありません。サプリメントだけで改善を目指すのではなく、必要な検査を優先しましょう。
Q9. 精子の運動率が0%の場合、精子はすべて死んでいますか?
必ずしもそうではありません。動いていない精子の中にも、生存している精子が存在する場合があります。精子生存率などの追加検査が必要になることがあるため、男性不妊の専門医に早めに相談しましょう。
Q10. 精子の運動率は鍼灸で改善できますか?
男性不妊に対する鍼灸の研究はありますが、精子の運動率や妊娠率が確実に改善するという十分な医学的根拠は確立されていません。まずは泌尿器科などで原因を確認し、必要な治療を受けることが大切です。鍼灸は、睡眠や疲労、ストレスなどに対する補助的な体調管理として検討できます。
まとめ|精子の運動率だけで妊娠の可能性を判断しないことが大切
精液検査で精子の運動率が低いと言われると、自然妊娠が難しいのではないかと不安になることもあると思います。
WHO第6版の下限参考値は、総運動率42%、前進運動率30%ですが、これらの数値だけで妊娠できるかどうかを判断することはできません。
運動率が低くても、精子濃度や総精子数によっては、運動している精子が一定数存在する場合があります。
また、精索静脈瘤や発熱、感染症など、運動率の低下に関係する原因が見つかる場合もあります。
精液検査の結果は変動することがあるため、一度の数値だけで判断せず、必要に応じて再検査や専門医による評価を受けることが大切です。
大切なのは、運動率の数字だけにとらわれず、総運動精子数やご夫婦それぞれの検査結果を確認し、適した妊活の方法を考えることです。
自然妊娠・人工授精・体外受精など、どの方法が適しているかは人によって異なります。
主治医と相談しながら、ご夫婦が納得できる方法で妊活を進めていきましょう。
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📚参考文献
- World Health Organization(WHO)|WHO laboratory manual for the examination and processing of human semen, 6th edition. 2021.
精液検査の標準的な方法や、総運動率・前進運動率・精子生存率の評価方法について参考にしました。 - European Association of Urology(EAU)|Guidelines on Sexual and Reproductive Health: Male Infertility.
WHO第6版の総運動率42%・前進運動率30%などの下限参考値、精液検査の再評価、精索静脈瘤などの原因と治療について参考にしました。 - American Urological Association / American Society for Reproductive Medicine(AUA/ASRM)|Diagnosis and treatment of infertility in men: Guideline Part I.
男性不妊の初期評価、精液検査の変動、再検査、身体診察や追加検査の必要性について参考にしました。 - American Urological Association / American Society for Reproductive Medicine(AUA/ASRM)|Diagnosis and treatment of infertility in men: Guideline Part II.
人工授精での総運動精子数の考え方、精索静脈瘤などに対する治療、サプリメントの有用性と限界について参考にしました。 - Tsujimura A, et al.|Summary of the Clinical Practice Guidelines for Male Infertility by the Japanese Urological Association With the Support of the Japan Society for Reproductive Medicine. International Journal of Urology. 2025.
日本の男性不妊症診療ガイドラインの英語版要約です。男性不妊の診断、精索静脈瘤、ホルモン異常や治療選択肢について参考にしました。 - Sixth edition of the World Health Organization laboratory manual of semen analysis: Updates and essential take away for busy clinicians. 2024.
WHO第5版と第6版の精液検査下限参考値の違い、精液検査の変動や検体の取り扱いについて参考にしました。 - World Health Organization|Recommendations from the WHO guideline for the prevention, diagnosis, and treatment of infertility. Human Reproduction. 2026.
男性不妊に対する抗酸化サプリメントについて、有効性の不確実性から推奨・非推奨のいずれも示されていないことを参考にしました。
※本記事は一般的な医学情報を提供するものであり、個別の診断や治療方針を示すものではありません。精子の運動率低下や男性不妊の原因、再検査、自然妊娠・人工授精・体外受精などの治療選択については、泌尿器科や不妊治療クリニックの主治医にご相談ください。
この記事の監修者

院長:宇都宮 泰子
(うつのみや やすこ)
FEMICA認定妊活指導士/鍼灸学修士/MBA(経営管理修士)
はり師・きゅう師(国家資格)
- 日本フェムライフ統合ケア協会 代表理事
- 日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー
- 日本生殖医学会会員
不妊・不育症を専門とし、東洋医学と生殖医療の両面から体質改善をサポート。大学院研究員としての研究活動も行いながら、臨床現場で妊活支援に従事している。
※本記事は一般的な医学情報を提供するものであり、診断・治療を目的とするものではありません。治療方針は必ず主治医の指示に従ってください。
精子の運動率や男性妊活の体調管理でお悩みの方へ
「精液検査で運動率が低いと言われた」
「次の人工授精や体外受精に向けて、身体の状態を整えたい」
「男性側も妊活に向けた体調管理を考えたい」
このようなお悩みをお持ちの方もいらっしゃると思います。
精子の運動率が低い場合は、まず精液検査や男性不妊を扱う泌尿器科での確認が大切です。
大阪市都島区にある宇都宮鍼灸良導絡院では、不妊治療クリニックでの治療方針を大切にしながら、男性・女性それぞれの妊活中の体調管理をサポートしています。
睡眠、疲労、冷え、ストレス、首肩の緊張などのお悩みに合わせて、良導絡測定や東洋医学的な体質の見方も参考にしながら、お一人おひとりに合った無理のないケアを考えています。
鍼灸によって精子の運動率改善や妊娠率向上を保証することはできませんが、不妊治療と並行した体調管理についてお悩みがありましたら、お気軽にご相談ください🍀






精液検査で「運動率が低い」と言われると、「精子が卵子まで到達できないのでは」「自然妊娠は難しいのでは」と心配になることもあると思います。
当院では、精子の運動率は大切な検査項目ですが、運動率だけで妊娠の可能性を判断できるわけではないことをお伝えしています。
特に、総運動率と前進運動率の違いや、精子濃度・総運動精子数も合わせて確認することが重要です。
また、運動率が低くなる原因には精索静脈瘤など、医療機関での治療が必要となる場合もあります。
鍼灸や良導絡測定で精子の運動率やその原因を診断することはできません。精液検査の結果をもとに、まず男性不妊を扱う泌尿器科などで必要な評価を受けていただくことを大切にしています。