
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と糖尿病の関係|やせ型でも必要な血糖検査と妊活の注意点
「PCOSと診断されたけれど、糖尿病にもなりやすいの?」「太っていなくても血糖値を調べた方がいい?」と心配になる方もいらっしゃると思います。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS:Polycystic Ovary Syndrome)は、月経不順や排卵障害、妊娠しづらさに関係する代表的な内分泌疾患です。
PCOSは糖尿病そのものではありません。しかし、PCOSではインスリン抵抗性や耐糖能異常、2型糖尿病のリスクが高くなることが知られています。
そして、この糖代謝の問題は肥満がある方だけとは限りません。標準体重ややせ型のPCOSでも確認が必要になることがあります。
この記事では、PCOSと糖尿病の関係、必要な血糖検査、妊活中に意識したい食事・運動・体重管理について分かりやすく解説します。
- PCOSは糖尿病そのものではありませんが、耐糖能異常や2型糖尿病のリスクが高くなることがあります。
- PCOSではインスリンの効きが低下する「インスリン抵抗性」が関係している場合があります。
- 糖代謝のリスクは肥満だけで決まらず、標準体重・やせ型のPCOSでも注意が必要です。
- PCOSの糖代謝評価では、75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)が重要な検査のひとつです。
- 食事・運動・体重だけでPCOSを自己管理せず、婦人科での治療や必要な検査と組み合わせて考えることが大切です。


多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とは?
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、排卵や男性ホルモン、卵巣の状態などに特徴がみられる内分泌疾患です。
名前に「多嚢胞」とありますが、単に卵巣に小さな卵胞が多く見えるだけでPCOSと診断されるわけではありません。
日本産科婦人科学会の2024年診断基準では、似た症状を示すほかの疾患を除外したうえで、次の3項目をすべて満たす場合にPCOSと診断します。
- 月経周期異常
- 多嚢胞卵巣またはAMH高値
- アンドロゲン過剰症またはLH高値
AMHが高いだけ、月経不順があるだけでPCOSと決まるわけではありません。月経周期、超音波検査、血液検査などを組み合わせて診断されます。
PCOSでみられやすい症状
PCOSでは、次のような症状がみられることがあります。
- 月経周期が長い、月経がなかなか来ない
- 排卵が不規則、または無排卵がある
- 妊娠しづらい
- ニキビや皮脂が増える
- 顔や身体の毛が濃くなる
- 体重が増えやすい
- お腹まわりに脂肪がつきやすい
ただし、症状の現れ方には個人差があります。
特に日本人では、強い多毛や肥満が目立たないPCOSもあります。そのため、「太っていないからPCOSではない」「体重が普通だから糖代謝も問題ない」と自己判断しないことが大切です。
PCOSと糖尿病はどう関係している?
PCOSと2型糖尿病は別の病気ですが、両者をつなぐ重要な要素のひとつがインスリン抵抗性です。
インスリンは、血液中のブドウ糖を細胞に取り込ませ、血糖値を一定に保つために働くホルモンです。
インスリン抵抗性とは、インスリンが分泌されていても効きにくくなっている状態です。
インスリンが効きにくくなると、身体は血糖値を保つために、より多くのインスリンを分泌しようとします。この状態が長く続くと、耐糖能異常や2型糖尿病につながる可能性があります。
また、インスリンが高い状態は卵巣のホルモン環境にも関係し、アンドロゲンの産生や排卵障害に関与すると考えられています。
つまりPCOSでは、排卵や月経だけでなく、糖代謝についても一緒に確認することが大切です。
PCOSだからといって必ず糖尿病になるわけではありません
PCOSと診断されると、「このまま糖尿病になるのでは」と不安になるかもしれません。
しかし、PCOSだから必ず2型糖尿病になるわけではありません。
一方で、国際的なPCOSガイドラインでは、PCOSのある方は年齢やBMIにかかわらず、耐糖能異常や2型糖尿病のリスクが高いことが示されています。
そのため、大切なのは必要以上に怖がることではなく、自分の現在の血糖状態を確認し、必要に応じて定期的にフォローすることです。
やせ型・標準体重のPCOSでも血糖に注意が必要?
PCOSというと「肥満のある人に多い」というイメージを持つ方もいます。
確かに、過体重や内臓脂肪の増加はインスリン抵抗性を悪化させる要因のひとつです。
しかし、PCOSは肥満の方だけに起こる病気ではありません。
標準体重ややせ型でもPCOSになることがあり、糖代謝のリスクについてもBMIだけで判断することはできません。
そのため、「太っていないから血糖検査は必要ない」と考えるのではなく、PCOSと診断された場合は主治医と糖代謝の評価について相談してみましょう。
PCOSではどんな血糖検査を受ける?
PCOSの糖代謝を確認する検査としては、次のようなものがあります。
- 空腹時血糖
- HbA1c
- 75g経口ブドウ糖負荷試験(75g OGTT)
75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)とは?
75g OGTTは、一定量のブドウ糖を含む飲料を飲み、その前後の血糖値を測定する検査です。
2023年の国際PCOSガイドラインでは、PCOSの糖代謝を評価する方法として、75g OGTTが最も正確な検査とされています。
OGTTを行うことが難しい場合には空腹時血糖やHbA1cが用いられることもありますが、PCOSの糖代謝異常を十分に拾えない場合があることも指摘されています。
どのくらいの頻度で検査する?
国際ガイドラインでは、PCOSと診断された成人・思春期の方では糖代謝の状態を評価し、その後は糖尿病のリスク因子などに応じて1〜3年ごとの再評価が推奨されています。
実際の検査時期や検査方法は、年齢、体重、家族歴、これまでの血糖値、妊娠希望などによって異なるため、主治医と相談してください。
妊活中のPCOSでは糖代謝の確認も大切
妊娠を希望しているPCOSの方では、排卵の状態だけではなく、妊娠前の糖代謝について確認しておくことも大切です。
2023年の国際PCOSガイドラインでは、糖尿病と診断されていないPCOSの方でも、妊娠を計画している場合や不妊治療を受ける場合には75g OGTTを検討することが推奨されています。
糖代謝の状態を事前に把握することは、PCOSそのものの管理だけでなく、妊娠中の健康管理を考えるうえでも役立ちます。
すでに不妊治療を受けている方は、自己判断で検査を追加するのではなく、通院中のクリニックへ「PCOSですが糖代謝の検査は必要ですか?」と相談してみるとよいでしょう。
PCOSの治療は妊娠希望の有無によって変わります
PCOSの治療は、「PCOSという診断名だけ」で一律に決まるものではありません。
年齢、月経周期、排卵の有無、アンドロゲンの状態、糖代謝、体重、そして妊娠を希望しているかどうかによって治療方針が変わります。
妊娠を希望している場合
妊娠を希望していて排卵障害がある場合には、状態に応じて排卵を促す治療などが検討されます。
インスリン抵抗性や糖代謝異常がある場合には、その状態も含めて薬物療法や生活習慣の見直しが検討されることがあります。
すぐに妊娠を希望していない場合
月経が長期間来ない状態が続く場合には、月経周期を管理し、子宮内膜を保護する目的でホルモン療法などが行われることがあります。
治療薬の選択は体質や目的によって異なるため、自己判断で薬を開始・中止せず、婦人科で相談しましょう。
PCOSの食事は「糖質を抜けばよい」ではありません
PCOSとインスリン抵抗性について調べると、「糖質をできるだけ減らした方がよいのでは」と考える方もいるかもしれません。
しかし、現在の国際ガイドラインでは、PCOSについて特定の食事法だけがほかの食事法より優れているという十分な根拠はありません。
そのため、極端に糖質を制限するのではなく、長く続けられるバランスのよい食事を考えることが基本です。
たとえば、次のようなことから意識してみましょう。
- 甘い飲料を日常的に多く飲まない
- 主食だけで食事を済ませない
- 魚・肉・卵・大豆製品などのたんぱく質を組み合わせる
- 野菜、海藻、きのこなどを取り入れる
- 食事を極端に抜かない
- 無理なく続けられる食事内容にする
妊活中は葉酸をはじめ、鉄、たんぱく質など必要な栄養素を十分にとることも大切です。
自己流の厳しい糖質制限や食事制限ではなく、必要に応じて医師や管理栄養士へ相談してください。
PCOSでは運動も大切|無理なく続けることがポイント
運動や日常的な身体活動は、PCOSの代謝面の健康を整えるためにも大切です。
ウォーキング、軽い筋力トレーニングなど、自分の体力に合った運動から始めると続けやすいでしょう。
一方で、「PCOSだから運動をたくさんしなければ」と無理に追い込む必要はありません。
妊活中で排卵誘発を行っている場合や、採卵周期で卵巣が大きくなっている場合などは、運動内容について不妊治療クリニックの指示を優先してください。
PCOSでは必ず減量した方がいい?
体重が多いPCOSの方では、体重管理が代謝や月経・排卵の状態を整えるうえで役立つ場合があります。
ただし、PCOSだから全員が減量する必要があるわけではありません。
標準体重ややせ型の方では、さらに体重を落とすことよりも、現在の健康的な体重を維持し、食事・運動・睡眠などを整えることが大切です。
また、妊活中に極端な食事制限や急激な減量を行うと、必要な栄養が不足したり、かえって月経や排卵へ影響したりする可能性があります。
体重について指摘された場合も、「何kgまで減らせばよいか」だけではなく、年齢や不妊治療のスケジュールも含めて主治医と相談して進めましょう。
月経不順を「PCOSだから」と放置しないことも大切
PCOSの方にとって月経不順は珍しい症状ではありませんが、「いつものことだから」と長期間放置するのはおすすめできません。
月経が長期間来ない状態では、子宮内膜への影響も考える必要があります。
また、月経不順の原因はPCOSだけではありません。甲状腺疾患、高プロラクチン血症などでも似た症状がみられることがあります。
次のような場合には婦人科へ相談しましょう。
- 月経周期が不規則な状態が続いている
- 月経が長期間来ていない
- 妊娠を希望しているが排卵のタイミングがつかみにくい
- PCOSを指摘されたが、その後の検査を受けていない
- 血糖値やHbA1cについて指摘されたことがある
- 家族に2型糖尿病の方がいるなど、糖代謝が気になっている
PCOSに対して鍼灸でできること
PCOSに対する鍼灸については、月経、排卵、ホルモン、代謝などへの影響を調べた研究があります。
一方で、研究ごとに鍼灸の方法や対象者が異なり、研究の質にもばらつきがあるため、PCOSを鍼灸だけで治療できる、妊娠率を上げられると断定できる段階ではありません。
PCOSの基本は、婦人科で状態を確認し、必要な治療や糖代謝の管理を行うことです。
鍼灸を取り入れる場合も、標準的な検査・治療の代わりではなく、妊活中の疲労、冷え感、首肩こり、睡眠、ストレスなど、体調管理を支える補完的なケアとして考えることが大切です。
不妊治療中の方は、採卵や胚移植などの治療スケジュールについても確認しながら、主治医の治療方針を優先して進めましょう。
PCOSと診断されると、「排卵できるのかな」「糖尿病になってしまうのかな」「痩せないと妊娠できないのかな」と、一度にたくさんのことが気になる方もいらっしゃいます。
PCOSは一人ひとり状態が異なり、体重だけで判断できるものでもありません。まずは現在の月経や排卵、糖代謝の状態を確認し、ご自身に必要なことを整理していくことが大切です。
妊活中の食事や運動についても、完璧を目指す必要はありません。病院での治療を大切にしながら、無理なく続けられる身体づくりを一緒に考えていきましょう。
Q. PCOSになると必ず糖尿病になりますか?
A. いいえ。PCOSだから必ず糖尿病になるわけではありません。ただし、PCOSでは耐糖能異常や2型糖尿病のリスクが高くなるため、必要に応じて糖代謝を確認することが大切です。
Q. やせ型のPCOSでも血糖検査を受けた方がよいですか?
A. PCOSの糖代謝リスクはBMIだけでは判断できません。やせ型や標準体重でも、PCOSと診断されている場合は糖代謝の評価について主治医へ相談してみましょう。
Q. HbA1cが正常なら糖尿病の心配はありませんか?
A. HbA1cだけではPCOSに伴う糖代謝異常を十分に確認できない場合があります。国際ガイドラインでは75g OGTTが最も正確な検査とされているため、必要性について主治医へ相談してください。
Q. PCOSなら糖質制限をした方がよいですか?
A. 極端な糖質制限を行う必要はありません。現在のところ、PCOSに対して特定の食事法だけが優れているとはいえません。妊活に必要な栄養を確保しながら、無理なく続けられる食事を基本にしましょう。
Q. PCOSでも妊娠できますか?
A. PCOSがあっても妊娠・出産に至る方は多くいます。排卵の状態や年齢、ほかの不妊要因によって必要な治療は異なるため、妊娠を希望している場合は早めに婦人科や不妊治療クリニックへ相談しましょう。
📝こちらの記事もおすすめです
-
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と妊活
PCOSによる排卵障害や妊活について、治療と身体づくりの視点から詳しく解説しています。 -
【不妊治療とBMIの関係】体重制限は必要?年齢別に考える妊活中の体づくり
妊活中のBMIや体重管理について、年齢や不妊治療とのバランスを含めて解説しています。 -
妊活中の運動はどこまでOK?激しい運動・テニス・排卵後の注意点
妊活中に取り入れやすい運動と、採卵周期などで注意したい運動について解説しています。
📚参考文献
- [1] 日本産科婦人科学会 生殖・内分泌委員会. 多嚢胞性卵巣症候群の診断基準(2024).
日本におけるPCOSの診断基準。月経周期異常、多嚢胞卵巣またはAMH高値、アンドロゲン過剰症またはLH高値について示されています。 - [2] Teede HJ, et al. Recommendations From the 2023 International Evidence-based Guideline for the Assessment and Management of Polycystic Ovary Syndrome. J Clin Endocrinol Metab. 2023.
PCOSの診断、糖代謝評価、75g OGTT、生活習慣、妊娠希望時の管理などについてまとめた国際ガイドラインです。 - [3] Eunice Kennedy Shriver National Institute of Child Health and Human Development (NICHD). Polycystic Ovary Syndrome (PCOS).
PCOSの症状や原因、インスリン抵抗性、糖代謝異常、2型糖尿病との関係について解説している米国国立衛生研究所(NIH)傘下機関の公式情報です。 - [4] Bai T, et al. The effects of acupuncture on patients with premature ovarian insufficiency and polycystic ovary syndrome: an umbrella review of systematic reviews and meta-analyses. Front Med. 2024.
PCOSに対する鍼灸関連研究をまとめたレビュー。一定の結果が報告されている一方、研究の異質性やバイアスなどから慎重な解釈が必要とされています。
この記事の監修者


院長:宇都宮 泰子
(うつのみや やすこ)
FEMICA認定妊活指導士/鍼灸学修士/MBA(経営管理修士)
はり師・きゅう師(国家資格)
- 日本フェムライフ統合ケア協会 代表理事
- 日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー
- 日本生殖医学会会員
不妊・不育症を専門とし、東洋医学と生殖医療の両面から体質改善をサポート。大学院研究員としての研究活動も行いながら、臨床現場で妊活支援に従事している。
※本記事は一般的な医学情報を提供するものであり、診断・治療を目的とするものではありません。治療方針は必ず主治医の指示に従ってください。
PCOSと向き合いながら妊活中の身体を整えたい方へ
PCOSと診断されると、排卵や月経だけでなく、血糖、体重、食事など、気になることが増えてしまうことがあります。
まずは婦人科や不妊治療クリニックで必要な検査・治療を受け、糖代謝について気になる場合も主治医へ相談することが大切です。
大阪市都島区にある宇都宮鍼灸良導絡院では、病院での治療方針を大切にしながら、月経周期や治療状況、睡眠、疲労、冷え感、ストレスなどを伺い、妊活中の身体づくりやコンディション調整をサポートしています。
PCOSと付き合いながら妊活を進めている方や、食事・運動を含めてご自身の体調について整理したい方もお気軽にご相談ください🍀







