
精液検査が正常でも妊娠しない?男性不妊の隠れた原因と追加検査
「夫の精液検査は正常だったのに、なかなか妊娠しない」
妊活中、このような疑問を感じるご夫婦は少なくありません。
一般的な精液検査では、精子の数・運動率・形態などを確認できます。しかし、精液検査が正常範囲だからといって、男性側の妊娠に関わる要因がすべて否定されるわけではありません。
精子DNAの状態、精索静脈瘤、ホルモン、感染・炎症、生活習慣など、通常の精液検査だけでは十分にわからない要因が関係することもあります。
この記事では、精液検査が正常でも妊娠しないときに知っておきたい男性不妊の考え方と、必要に応じて検討される追加検査について解説します。
- 精液検査が正常範囲でも「妊娠できること」を保証する検査ではありません。
- 精液検査の数値は体調・発熱・禁欲期間などによって変動するため、必要に応じて再検査することがあります。
- 精子DNA断片化(DFI)は通常の精液検査では評価できませんが、全員に必要な検査ではありません。
- 精索静脈瘤、ホルモン異常、感染・炎症などが隠れている場合があります。
- 妊活が長引いている場合は、女性側だけでなく男性側も含めて夫婦で評価することが大切です。
精液検査が正常でも妊娠しないことはあります
精液検査は、男性不妊を調べるうえで非常に重要な基本検査です。
主に以下のような項目を確認します。
- 精液量
- 精子濃度
- 総精子数
- 総運動率
- 前進運動率
- 正常形態率
- 白血球の有無など
WHOの精液検査マニュアル第6版では、精液量1.4mL、精子濃度1,600万/mL、総精子数3,900万、総運動率42%、前進運動率30%、正常形態率4%などが参考値として示されています。[1]
ただし、ここで注意したいのが、これらは「この数値以上なら必ず妊娠できる」という合格ラインではないということです。
精液検査は男性の妊孕性を評価する大切な情報の一つですが、一つひとつの数値だけで妊娠できる・できないを判断することはできません。[2]
精液検査が正常でも男性側の要因が残る理由
1.精液検査の結果は変動します
精子の状態はいつも一定とは限りません。
発熱、睡眠不足、強いストレス、禁欲期間、採精時の状態などによって、精子濃度や運動率などが変化することがあります。
そのため、1回の検査結果だけですべてを判断せず、必要に応じて再検査を行うことがあります。
2.通常の精液検査では精子DNAの状態まではわかりません
一般的な精液検査では、精子の数や動き、形などを評価しますが、精子が持つDNAの損傷まで直接評価するものではありません。
そこで用いられることがあるのが、精子DNA断片化検査です。
精子DNA断片化(SDF・DFI)は、精子のDNAがどの程度損傷しているかを評価する指標で、妊娠成績や流産との関連が研究されています。
特に反復流産では、精子DNA断片化が高い男性が多いことが報告されており、AUA/ASRMやASRMでも、原因のはっきりしない反復流産などでは検査を検討できるとされています。[2][3]
一方、DFI検査は男性不妊の初期検査として全員が受ける検査ではありません。妊活の経過や流産歴、治療歴などをもとに、主治医や男性不妊を専門とする医師と相談して検討することが大切です。
3.精索静脈瘤が隠れていることがあります
男性不妊で確認しておきたい代表的な疾患の一つが精索静脈瘤です。
精索静脈瘤とは、精巣の周囲にある静脈が拡張した状態です。精巣周辺の温度上昇や酸化ストレスなどを介して、精子の状態に影響する可能性があります。
精索静脈瘤は、泌尿器科での診察や、必要に応じた超音波検査などによって確認されます。
精液検査だけを受けて男性不妊外来や泌尿器科で診察を受けたことがない場合は、一度相談してみることも選択肢です。
4.ホルモンや感染・炎症が関係する場合もあります
精子を作る働きには、FSH・LH・テストステロンなどのホルモンが関わっています。
精子数が非常に少ない場合や、性欲低下、勃起機能の低下、精巣サイズの異常などがある場合には、血液検査によるホルモン評価が検討されることがあります。
また、精液中の白血球が多い場合や、排尿時の違和感・痛みなどがある場合は、感染や炎症について追加検査が行われることもあります。
5.年齢や生活習慣も精子に関係します
男性は女性のように閉経するわけではありませんが、年齢によって精子の状態が変化する可能性があります。
また、喫煙、肥満、過度な飲酒、睡眠不足、高熱、精巣周辺への長時間の熱曝露なども、精子の状態との関連が研究されています。
精液検査が正常だった場合でも、「検査が正常だから生活習慣は何も気にしなくてよい」というわけではありません。
特にサウナや長風呂など熱の影響が気になる方は、サウナや長風呂は精子に悪い?妊活中の男性の熱対策も参考にしてください。
酸化ストレス検査(ORP)は全員が受けたほうがいい?
精子の「質」を評価する方法として、酸化ストレスや酸化還元電位(ORP)を測定する検査を目にすることもあります。
酸化ストレスは精子DNAの損傷などとの関連が研究されており、男性不妊の研究分野で注目されています。
ただし、現時点では測定方法や結果の解釈が十分に標準化されているとはいえず、EAU(欧州泌尿器科学会)ガイドラインでも、ROSなどの酸化ストレス検査を日常診療で一律に行う段階ではないとされています。[4]
「精液検査が正常だったからORP検査を必ず受ける」という考え方ではなく、治療歴やその他の検査結果を踏まえて医師と相談しましょう。
精液検査が正常でも追加評価を相談したいケース
次のような場合には、男性不妊を専門とする泌尿器科などで一度相談してみることがあります。
- 一定期間妊活を続けても妊娠に至らない
- 精液検査を1回しか受けていない
- 流産を繰り返している
- 体外受精・顕微授精を繰り返している
- 胚の発育について指摘されている
- 陰嚢の腫れ・違和感や精索静脈瘤が気になる
- 精巣が小さい、左右差が気になる
- 勃起や射精について悩みがある
- 停留精巣や精巣炎などの既往がある
ただし、必要な検査は一人ひとり異なります。すべての検査を一律に行う必要はありません。
男性不妊で行われることのある追加検査
問診・身体診察
男性不妊の評価では、精液検査だけでなく、これまでの病気、手術歴、服薬、生活習慣、妊娠歴、性交・射精の状況などを確認します。
また、精巣の大きさや精索静脈瘤の有無などを診察することもあります。
再度の精液検査
精液所見には変動があるため、必要に応じて複数回確認します。
ホルモン検査
必要に応じてFSH、LH、テストステロンなどを測定し、精子形成に関わるホルモンの状態を確認します。
超音波検査
診察所見などから必要と判断された場合には、精索静脈瘤や精巣の状態などを確認するために超音波検査を行うことがあります。
精子DNA断片化検査
通常の精液検査では評価できない精子DNAの損傷を調べます。ただし、男性不妊の初期評価として全員に推奨される検査ではありません。
詳しくは、精子DNA断片化検査とは?精子の質と男性不妊の関係をご覧ください。
夫婦どちらか一方だけの問題と考えないことが大切です
妊活が長引くと、「女性側に原因があるのでは」と考え、女性だけが検査や治療を続けてしまうケースがあります。
しかし妊娠には卵子と精子の両方が関係しています。
男性側の検査を行うことは、「夫に原因があるかを探す」という意味ではありません。
夫婦それぞれの現在の状態を確認し、次に何をすればよいか整理するための検査と考えることが大切です。
男性がまだ一度も精液検査を受けていない場合には、まず基本となる精液検査から始めてみましょう。
男性の妊活検査全般については、妊活前に男性が受けておきたい検査とは?精液検査だけではわからないことで詳しく解説しています。
男性不妊に対して鍼灸でできること
男性不妊に対する鍼灸については、精子濃度や運動率などへの影響を調べた研究があります。
一方で、研究数が少ないことや研究方法にばらつきがあることから、鍼灸によって男性不妊が改善する、妊娠率や出生率が上がると現時点で断定できる十分なエビデンスはありません。[5]
そのため、精索静脈瘤やホルモン異常、感染症など、医学的な検査や治療が必要な状態を鍼灸だけで対応することはおすすめできません。
当院では、医療機関での検査・治療を大切にしながら、妊活中の睡眠、ストレス、冷え、疲労などを含めて身体全体の状態を確認し、妊活を続けやすいコンディションづくりをサポートしています。
男性不妊に対する鍼灸の研究について詳しく知りたい方は、男性不妊に鍼灸は本当に効く?論文から読み解く精子所見への効果と妊娠率もご覧ください。
精液検査で「正常です」と言われると、男性側についてはもう調べなくてもよいと思われることがあります。
しかし、妊娠は精液検査の数値だけで決まるものではありません。
一方で、通常の精液検査ではわからない項目をすべて検査すればよい、というものでもありません。
妊活の期間や年齢、これまでの治療経過、流産歴などを整理したうえで、必要な場合は男性不妊を専門とする医療機関に相談することが大切です。
Q. 精液検査が正常なら男性不妊ではないですか?
A. 精液検査が正常範囲でも、男性側の要因が完全に否定されるわけではありません。精子DNAの状態、精索静脈瘤、ホルモン、感染・炎症など、通常の精液検査だけでは十分に評価できない項目もあります。
Q. 精子DNA断片化検査は受けたほうがいいですか?
A. 全員に必要な検査ではありません。反復流産など、特定の状況では検討されることがあります。これまでの妊活・治療経過を踏まえて主治医に相談しましょう。
Q. 精液検査は1回正常なら再検査はいりませんか?
A. 精液所見は体調や発熱、禁欲期間などによって変動します。妊活が長引いている場合などには、医師の判断で再検査を行うことがあります。
Q. 夫が病院へ行くことに抵抗があります
A. 医療機関によっては自宅で採精して持参できる場合もあります。まず精液検査から始め、結果によって必要な場合に男性不妊外来や泌尿器科を受診する方法もあります。採精方法や持参時間は医療機関ごとに異なるため、事前に確認してください。
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📚参考文献
- [1] World Health Organization. WHO laboratory manual for the examination and processing of human semen, 6th ed. 2021.
精液検査の方法や評価に関するWHOの国際的なマニュアル。 - [2] American Urological Association / American Society for Reproductive Medicine. Diagnosis and Treatment of Infertility in Men: AUA/ASRM Guideline. Amended 2024.
男性不妊の評価、精子DNA断片化、精索静脈瘤などについてまとめたガイドライン。 - [3] American Society for Reproductive Medicine. Recurrent pregnancy loss: a committee opinion. 2026.
反復流産と精子DNA断片化を含む男性側評価について解説。 - [4] European Association of Urology. EAU Guidelines on Sexual and Reproductive Health: Male Infertility.
男性不妊、酸化ストレス、精子DNA損傷などに関する欧州泌尿器科学会のガイドライン。 - [5] Acupuncture for oligospermia and asthenozoospermia: A systematic review and meta-analysis.
男性不妊に対する鍼灸の研究を検討したシステマティックレビュー。
この記事の監修者


院長:宇都宮 泰子
(うつのみや やすこ)
FEMICA認定妊活指導士/鍼灸学修士/MBA(経営管理修士)
はり師・きゅう師(国家資格)
- 日本フェムライフ統合ケア協会 代表理事
- 日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー
- 日本生殖医学会会員
不妊・不育症を専門とし、東洋医学と生殖医療の両面から体質改善をサポート。大学院研究員としての研究活動も行いながら、臨床現場で妊活支援に従事している。
※本記事は一般的な医学情報を提供するものであり、診断・治療を目的とするものではありません。治療方針は必ず主治医の指示に従ってください。
精液検査では問題ないと言われたけれど、不安が残っている方へ
「精液検査は正常だったのに、なかなか妊娠につながらない」「男性側にも何かできることがあるのかな」と感じている方もいらっしゃると思います。
妊活では、検査結果だけでなく、これまでの治療経過や生活習慣、睡眠、ストレス、身体の状態などを含めて考えていくことも大切です。
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